緑膿菌性肺炎(HE染色). 免疫不全状態(とくに好中球減少状態)は緑膿菌などの弱毒菌による敗血症を生じやすい。 血管壁へ緑膿菌が集まる本所見は、perivascular cuffing (haze)と称される。
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感染症の病理


関連著書: 
  感染症病理アトラス 2000 APR 文光堂
CD-ROM:
  「細胞診でみつかる病原体」 2001 OCT 日本臨床細胞学会兵庫県支部講演
  Pathology of Infectious Diseases CD-ROM English Version    2003 NOV

 感染症の病理診断 〜その実践的意義と症例提示〜

堤 寛 Yutaka Tsutsumi, M.D.  

はじめに  
1.組織・細胞内における病原体証明の方法論 2.グラム染色の重要性
3.MRSA院内感染における病理解剖の役割 4.肺結核と業務感染
5.性感染症の病理診断 6.病理診断がキーとなった感染症例
おわりに 参考文献

 写真はPathology of Infectious Diseases CD-ROM English Version から転用 (図25を除く)

はじめに
 感染症はきわめて多様である。世界的見地からみると、感染症は依然としてヒトの疾患の中でもっとも重要な位置を占める。WHOの統計から2000年における世界の死因をみると、感染症・寄生虫症による死亡が19%、がんが12%、外因死が9%であり、1947年におけるわが国の死因(感染症・寄生虫症20%、がん5%、外因死5%)に近い。ちなみに、2000年におけるわが国の死因は、感染症・寄生虫症2%、がん32%、外因死8%である。死因となる世界の感染症・寄生虫症としては、下痢症、肺炎、マラリア、結核が四大疾患であり、このほか、エイズ、麻疹、住血吸虫症、トリパノソーマ症が上位に並ぶ。新生児破傷風、細菌性髄膜炎、百日咳、ジフテリア、腸チフス、ウイルス性肝、鉤虫症(貧血)、回虫症(腸閉塞)、フィラリア症(オンコセルカ症)、アメーバ赤痢、リーシュマニア症なども無視できないくらい多い。

 わが国における感染症は、海外旅行やグルメ食の普及、性風俗の変化、化学療法やエイズによる免疫不全症に続発する日和見感染症の増多などの要因により複雑・多様化している。病理組織学的に組織像や細胞診検体に遭遇するチャンスはどの病原体についてもあるので、病理医はそれぞれの感染症の臨床所見、病理形態像や病原体の証明方法に慣れ親しんでおく必要がある[1]。しかし、めったに遭遇しない病変を的確に診断するには、相当の経験と勇気が必要となるのも事実である。

 感染症の病変に遭遇したときの病理診断が"肉芽腫性炎症"や"膿瘍"では、腫瘍の診断が"上皮性悪性腫瘍"とされるのと同様であり、物足りない。感染症の病理診断は次の2点を考えると、癌の病理診断と同等に重要である。@正しい診断が患者の治療に直結する。A診断結果に「社会性」がある。新興・再興感染症、MRSA感染症、性行為感染症や多くの伝染性疾患では、迅速な診断が社会秩序保持に一役買う。たとえば、梅毒やクラミジア症では的確かつタイムリーな病理診断が、本人の利益のみならず社会へのSTD蔓延防止に役立つだろう。

 正確・適切な病理診断には、臨床医と病理医の連係プレイが不可欠である。不十分な臨床情報しか入手できない状況で下された不満足な病理診断の責任を病理医だけのせいにすべきでない。臨床医が病理医に何を期待するのかを明記した病理申込用紙が望ましい。病理医からすれば臨床医への電話こそが正しい診断のキーポイントとなるコミュニケーション手段である。


1.組織・細胞内における病原体証明の方法論
 臨床所見・臨床情報や培養・血中抗体価といった検査が感染症診断の基本である。病理診断では、肉眼像、HE染色の組織像、パパニコロウ染色やギムザ染色による細胞像の把握が基本で、必要に応じて、グラム染色、PAS染色、グロコット染色といった特殊染色を追加する。特異抗体を利用する免疫染色や特異的プローブやプライマーを利用するin situ hybridization法やPCR法は感染症の病理診断に適した方法論である[2,3]。 病原体抗原・ゲノムはヒト組織には存在せず、感染症病巣における病原体数(抗原密度やゲノムコピー数)が多い。異種核酸であるがゆえに、安定で解析しやすいDNAが検索対象になる。病原体の抗原やゲノムの構造はよく研究されており、特異的モノクローナル抗体の作製や特異的塩基配列を選択した標識プローブのデザインが可能である。病原体の粒子構造は安定であり、ホルマリン固定パラフィン切片が電顕観察の対象となる。さらに、感染症回復期の患者血清に含まれる特異抗体をパラフィン切片内の病原体同定に応用できる。


2.グラム染色の重要性
 塗抹標本のグラム染色、最低2日を要する培養検査に比べて圧倒的に迅速で、かつ情報量が多い。細菌検査室の塗抹検査で得られた所見が、臨床医に必ずしも正確に伝わらない実状がある。その理由は、細菌検査の記載用紙が培養結果の記述に紙面を割く結果、塗抹標本のもつ情報を伝えるスペースが不足すること、臨床検査専門医のチェックを受けられるとは限らないこと、臨床医の塗抹検査の重要性に対する認識不足の3点に集約される。

 起因菌推定に重要なグラム染色所見をまとめる。好中球・マクロファージに貪食される細菌、好中球の周囲に認められる多量の単一菌は起因菌を示唆する。扁平上皮細胞表面に付着した細菌、扁平上皮周囲の細菌、複数種の細菌による菌塊は非病原性口腔内雑菌である。肺炎球菌は、莢膜(菌体周囲の明るく抜けるハロー)を有するグラム陽性双球菌の形態と好中球貪食を免れる所見(有莢膜菌は食細胞に貪食されにくい)からグラム染色で同定可能である。治療方針の決定に培養結果を待つ必要はない。MRSA による院内肺炎では、多数のグラム陽性球菌が好中球の内外に群がり、連鎖傾向や莢膜形成を欠く。グラム陰性双球菌が食細胞に貪食されている場合は、Moraxella catarrhalis 感染症と診断される。ムコイド型緑膿菌持続感染症では、グラム陰性桿菌が均一なムコイド物質の中に浮いている。インフルエンザ菌感染では、一見球菌に類似する小型グラム陰性桿菌が好中球内外に観察される。莢膜を有する大型グラム陰性桿菌は肺炎桿菌と同定される(図1〜6)

図1
図2
 Streptococcus pneumoniae (Gram). Gram-positive diplococci with capsule (haloe) formation, located outside neutrophils.
 Methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) (Gram). Irregularly clustered Gram-positive cocci in and outside neutrophils.

図3

図4
 Branhamella (Moraxella) catarrhalis (Gram). Gram-negative diplococci phagocytized by neutrophils.
 Haemophilus influenzae (Gram). Small-sized, Gram-negative short rods mainly seen outside neutrophils.

図5

図6
 Klebsiella pneumoniae (Gram). Large-sized, Gram-negative rods with capsule formation.
 Pseudomonas aeruginosa (mucoid type, Gram). Gram-negative rods floating within mucoid matrices.



3.MRSA院内感染における病理解剖の役割
 MRSAは院内感染の主役である。医療者の手指を介して接触感染するMRSAの院内感染を防ぐためには、徹底した手洗い・手指消毒と病室内では肩から上に手をあげないこと(顔を触らない習慣づけ:顔にはMRSAが常在しているとみなして対処する。すなわち、ユニバーサルプレコーションの実践)の安全教育が何より大切だ[4] たいへん残念なことに、わが国ではMRSA肺炎・敗血症による死亡が少なくない。患者検体から分離・培養される黄色ブドウ球菌のうちMRSAの占める割合はMRSA率とよばれる。院内感染対策の進んだ北欧・オランダのMRSA率は1%以下、ドイツでは数%、英国・ベルギーは20%、南欧・米国は30%、わが国ではこの数値が実に60〜80%に達する(図7)
  MRSAは常在菌的性格が強いため、喀痰中から MRSA が培養された場合、それが肺炎の原因菌である確率はそれほど高くない。この点も臨床現場ではしばしば不明確であり、MRSA陽性ならすぐにバンコマイシン投与といった誤った対応がまれとはいえない[
5]。

図7


 病理解剖は病変とその原因の因果関係を明らかとなるもっとも直接的な方法であるため、病理解剖で得られる情報をもっと積極的に院内感染防止対策に活用すべきである。まず、剖検時に心臓血および肺組織から積極的に細菌培養を行う習慣づけが大切である。剖検肺組織からMRSAが培養された場合を考えよう。グラム陽性菌塊が肺胞内に観察されるが炎症反応を欠くときは、この菌塊は死亡直前における上部気道からのたれ込みであり、MRSA 肺炎ではない(図8)


 グラム陽性球菌をとり囲んで好中球反応がみられれば、MRSA 肺炎と判断される(図9、10)。こうした剖検結果はなるべく速やかに病棟や院内感染防止委員会に報告されねばならない。1999年4月に施行された感染症予防新法でMRSA感染症は新五類感染症に指定されており、300床以上の総合病院では全例届け出の義務がある。
図8

 Incidental terminal aspiration of MRSA colonies into the lung, leading to a culture-positive result (HE). Morphologic study can easily distinguish MRSA-induced infection from the carrier state of MRSA without provoking clinical manifestation.
 
図9
図10
  MRSA pneumonia
  Transbronchial infection of MRSA often provokes cavitation in the lung (gross findings).
  MRSA pneumonia
  Coccal colonies are densely surrounded by neutrophils (HE). Strong basophilia of the bacteria in H&E preparation indicates Gram positivity.


4.肺結核と業務感染
 結核菌は、乾燥、酸・アルカリや低温に強く、かつ感染力が高いため、空気感染(飛沫核感染)を生じる。被包乾酪巣(陳旧性病巣)(図11)でも少数の結核菌が生きて続けるにもかかわらず、臨床的に診断のついていない活動性結核症はまれではない(結核症の臨床的正診率は2割程度とされる)(図12、13)。さらに、続発性免疫不全状態に陥っている易感染性末期患者が増加してきている。エイズの死因として結核菌は最重要な病原体である。これらの理由から、剖検に携わる病理医や病理技師にとって結核は由々しき職業病となっている。わが国の病理関係者の結核罹患率は、実に600人/年/10万人を越える(表1)。病理解剖室における結核菌に対する無防備さの問題は、バイオハザード対策の設備(ハード面)の遅れのみではなく、病理解剖に臨む病理スタッフの問題意識の低さとも大いに関係がある。「病理医は結核にかかってようやく一人前」といった暴論は許されない。定期健康診断の受診率が満足すべきレベルにある否か、自らと自らの所属する部署を自省する必要がある[6]。
図11

Tuberculosis of lung
 Caseous granuloma at the periphery of the lung (gross findings). Within the central caseation, pre-existing structures such as vessels and bronchioles can be traced, indicating coagulation necrosis.
図12
図13
   Exudative tuberculosis in case of SLE after corticosteroid therapy (36 y-o F), accompanying high biohazard at autopsy (gross findings). Tuberculosis is highly activated by suppression of cell-mediated immunity, including steroid therapy and AIDS.
   Exudative tuberculosis in immunosuppression, containing an overwhelming number of acid-fast bacilli within the lesion (Ziehl-Neelsen). The lesion is highly biohazardous. The airborne transmission of M. tuberculosis should be avoided during autopsy by wearing the N95 particulate mask.

 結核症に罹患した病理関係者の多くはBCG接種によるツ反陽転者である。BCG接種による免疫状態を過信してはならない。成人期におけるBCG接種の効果は疑問である。米国では小児に対してもBCG接種を行われてこなかった。最近、わが国でも学童期のBCG接種は中止された。結核症の疑われる剖検例では見学者の入室禁止、剖検室入室者はN95微粒子用マスク(空気感染対策用の特殊マスクで1個200円程度)を着用する、新鮮臓器の写真撮影は行わないなどの予防策が肝要である。結核病変の肉眼診断の重要性をとくに強調したい。

 結核症に対するバイオハザードは術中迅速診断でも発生する。結核か癌かの鑑別診断が求められる肺の銭型病変は、肉眼的に結核の診断がつけば、凍結切片作製は行わない予防策が大切である。結核菌は-20℃のクリオスタット(凍結切片作製機)庫内でも簡単には死滅しないし、クリオスプレイを利用する薄切操作によって結核菌が部屋中に飛散しうる。

 結核菌培養検査、気管支鏡検査や結核病巣の手術切除に際しても同様のバイオハザードは発生するが、十分な実態調査はなされていない。医療者自らが排菌しつつ診療する危険を最小限とするために、慢性疾患である結核症に罹患しない予防措置と早期発見のための健康診断が重要である。「意識改革」は医療者に対する有効なワクチン接種といえよう。

 表1.わが国の病理関係者における肺結核症(アンケート調査*による統計的解析)
                    (データ/10万人/年)

 
  病理医+病理技師(n=2,388)
639.5
  病理医(n=1,201)
683.9
  病理技師(n=1,187)
592.4
  病理技師(解剖介助を行う)(n=753)
823.8
  病理技師(剖検介助を行わない)(n=422)
125.1
  病理医+病理技師(1978〜1988年)
559.3
  病理職員(病理医と病理技師を除く)(n=207)
76,7
  衛生学・公衆衛生学職員(n=732)
55.3
  衛生学・公衆衛生学職員(医師+技師)(n=414)
94.2
  JR職員(n=500,000)(1982年)  
30.0
  日本人(1982年)
53.9
  イギリス人(1982年)
15.0
  イギリス病理医(1953〜1955年)
547.0
 

  *病理業務開始以降の結核症治療歴を調査した。
  1982年は病理関係者の在職期間の中央値に相当する年次。
  Sugita M, et al. Acta Pathol Jpn 1990; 40: 116-127 より抜粋


5.性感染症の病理診断
 性感染症(STD)の迅速かつ正確な診断は、患者個人の利益にとどまらず、社会的見地からもその意義が大きい。適切な病理学的診断が無用な二次感染防止につながる。近年の性風俗の変化とともにわが国におけるSTDの臨床像、疾病の質や罹患部位が変わりつつある。単純ヘルペスウイルス感染症では、1型は口腔・口唇病変、2型は外陰部病変が古典的だったが、最近の外陰ヘルペスの約半数は1型ウイルスによる(図14、15)
図14
図15
  Herpes simplex virus infection of vulva
  Multiple map-like erosions focally with bulla formation are seen in the vulva (gross findings). Acute infection of HSV, type 1 accompanying severe clinical manifestation, transmitted by oral sex, is suspected.
  Herpes simplex virus infection of vulva
  Squamous epithelia are often multinucleated and show intranuclear inclusion bodies. Groundglass (smudgy) nuclei are characteristic (Papanicolaou).

 現在、わが国における男性淋疾の多くは、女性の無症候性淋菌性咽頭炎からの接触感染である(図16、17)。梅毒性咽頭潰瘍を罹患する女性例もある。同性愛男性では、赤痢アメーバ症、ランブル鞭毛虫症といった原虫感染症が増加している[7]
図16
図17
  Chlamydia trachomatis infection of pharynx
 Lymphoid hyperplasia and exocytosis into the overlying squamous mucosa are observed (HE).
  Chlamydia trachomatis infection of pharynx
 Cytoplasmic inclusion bodies filled with C. trachomatis antigen-positive granules are seen in some squamous cells (immunostaining).

 クラミジア症は現代の性感染症の代表である。女性に症状がでにくいことが、本疾患蔓延の大きな要因である。女性では、膣炎・頚管炎から不妊症の原因となる卵管炎をきたす。無症候性クラミジア性咽頭炎も感染源として重要である。臨床的検査(分泌物の培養、蛍光抗体法、EIA法、血清学的検査、PCR法)で診断できるが、いまだ一般的ではない。子宮頚部の擦過細胞診検査で、クラミジア性封入体(星雲状小体)を上皮細胞細胞質内にみいだすことは、細胞検査士および病理医に課せられた課題である(図18、19)
図18
図19
  Chlamydia trachomatis cervicitis
 A metaplastic cell contains a "nevular inclusion body", globular change of the perikaryotic cytoplasm (Papanicolaou).
  Chlamydia trachomatis cervicitis
 
Restaining procedure demonstrates C. trachomatis antigen in the cytoplasmic inclusion. After the coverglass sloughed off and Papanicolaou dyes bleached, immunostaining was performed using the same cytology specimen.

 特異抗体を用いた免疫染色でクラミジア抗原が可視化される。男性では、非淋菌性尿道炎にひき続いて副睾丸炎や前立腺炎が生じうる。クラミジア性副睾丸炎は臨床的な炎症所見に乏しく、副睾丸腫瘍に類似の腫瘤形成をきたす。組織学的には、腺管構造の破壊に乏しく、導管上皮細胞の反応性増生、扁平上皮化生やリンパ球の上皮細胞間への浸潤を認める。上皮細胞の細胞質にクラミジア抗原陽性の封入体が少数観察される(図20、21)[8] クラミジア性副睾丸炎や卵管炎がHE染色で推定診断可能である事実は、治療的視点のみならず、社会的見地からも重要である。
図20
図21
  Chlamydia trachomatis epididymitis
 Marked mononuclear infiltration is seen among and around the ductal epithelial cells (HE, low power). Ductal cells are not destroyed, and lymphoepithelial lesions are commonly formed. The lumen contains neutrophils.
  Chlamydia trachomatis epididymitis
 The granulated cytoplasmic inclusions are immunoreactive for Chlamydia trachomatis antigen. Immunostaining is essential for making the diagnosis of chlamydial inflammation (immunostaining using a monoclonal antibody).

図22
 梅毒も病理診断で確定できる。4年前に悪性リンパ腫を罹患し、化学療法で完全寛解した既往のある45歳男性例が、1週間前より、発熱とともに顔面、頚部に径 8〜10 mm大の多発性発疹を認め来院した(図22) 悪性リンパ腫の皮膚浸潤が疑われて生検が行われた。組織学的に真皮中層から乳頭層にかけて小リンパ球および形質細胞の高度の浸潤がみられ、肥厚した表皮内へリンパ球浸潤が及んでいた(図23)。 形質細胞浸潤と内皮細胞腫大がめだつ点から梅毒の可能性を疑って免疫染色を行うと、陽性に染色される長らせん菌が表皮内に多数証明された(図24)。 再診時、体幹部にも多数の小紅斑(バラ疹)がみられ、血清梅毒反応強陽性が確認された。診断のポイントは、梅毒の可能性を臨床的あるいは組織学的に疑うことができるか否かにある。

Syphilis, secondary
 The papules are eroded, and biopsy was performed from one of the neck papules. Clinically, cutaneous recurrence of malignant lymphoma was suspected.

図23
図24
  Syphilis, secondary
  Dense infiltration of small lymphocytes and plasma cells is observed in the dermis. Hyperkeratotic acanthosis and exocytosis are associated (HE, low power).
  Syphilis, secondary
  Immunostaining using a commercially available antiserum to Treponema pallidum identifies numbers of coiled pathogens among the squamous epithelium. After the histopathological diagnosis, strongly positive Wassermann's reaction was serologically reconfirmed.


6.病理診断がキーとなった感染症例
 以下に、病理診断が有用だった感染症を症例提示する。感染症の的確な病理診断には、背景となる患者情報の理解と感染症・病原体に関する知識が統合されるとともに、臨床医と病理医との十分なコミュニケーションが求められることをぜひわかってほしい。
1) サイトメガロウイルス(CMV)感染から診断が確定されたエイズ
 45歳男性が胸やけを訴えて来院。上部消化管内視鏡検査で、びらん性食道炎がみいだされ、生検が行われた。潰瘍底の肉芽組織の血管内皮細胞に少数のCMV封入体が観察された(図25) CMVは、ステロイド・抗癌剤療法後、臓器移植後やエイズのような免疫不全状態ではしばしば再活性化をきたし、患者の生命を脅かすことがある。本例では、エイズの初発症状が食道炎だったことが血清診断で確定された。
図25

Cytomegalic esophagitis
  Cytomegalic inclusions are seen in the endothelial cells of ulcer base granulation tissue. Histopathological diagnosis prompted serum HIV checking(HE).
  

2) 下痢原性大腸菌感染症
 感染性腸炎例(20歳女性)の大腸生検に、腸管表面に付着しつつ増殖するグラム陰性桿菌が観察された(図26、27)。 粘膜には炎症細胞浸潤が目立つが、潰瘍形成はみられない。下痢原性大腸菌の一種である腸管付着性大腸菌あるいは腸管出血性大腸菌による感染症とみなされる。その後の培養検査で、腸管出血性大腸菌O-157, H7が確定された。
図26
図27
  E. coli O-157 infection
  Inflammation focally accentuated in the lamina propria (HE, low power)
  E. coli O-157 infection
  Numbers of rods attached to the crypt epithelium in the region of active inflammation (HE, high power)

 下痢原性大腸菌には、小腸に感染して「食中毒」を生じる病原血清型大腸菌(EPEC)およびコレラ様症状を伴う毒素原性大腸菌(ETEC)と、主として大腸に病変を生じる腸管侵入性大腸菌(EIEC)(赤痢類似病変を形成)、腸管付着性大腸菌(EAEC) および腸管出血性大腸菌(EHEC) の5種が知られている。EAEC感染症の多くは輸入感染症である。腸管出血性大腸菌による感染は二次感染を生じる伝染性疾患(法的には「三類感染症」)である。
3) 糞線虫症
 貧血、消化管出血、低蛋白血症を訴える64歳男性(神奈川県在住)から胃生検が行われた(図28)。 胃粘膜腺管内に感染する小線虫をみいだした病理医は、残念ながら糞線虫症という病理診断名を用いなかった(診断は単に寄生虫感染だった)ため、本例では治療開始が遅れ、重症化を招いてしまった。その理由は、臨床医がオーダーした糞便の虫卵検査が陰性だったためである(本症では虫卵ではなく、幼虫が排出される!)。たいへん危険で残念なミスコミュニケーションだった。
図28

Strongyloidiasis
 Numbers of larvae surrounded by the eggshell are seen in the metaplastic gastric pit, indicating the state of hyperinfection (HE).

 糞線虫症では、糞線虫が小腸上部に寄生する。わが国では九州、とくに奄美大島、沖縄地方に分布する。糞線虫には寄生世代と自由世代がある。寄生世代はすべて雌虫で単為生殖を行い、虫卵を有する体長約2 mmのフィラリア型を呈する。卵は腸内で孵化し、ラブディティス型幼虫となる。外界に出た幼虫は有性生殖を営む自由生活性となる。生育条件が悪化するとフィラリア型幼虫が生じ、ヒトへ経皮感染する。腸管内でフィラリア型に変態して自家感染による過剰感染、重症化を招く場合もある。通常、宿主寄生体関係のバランスの中で、長期にわたる"緩慢な自家感染"が持続する。

4) 輸入感染症:内臓リーシュマニア症
 4年間インド在住、その後1年間オーストラリアに滞在した32歳男性が、頭痛、高熱、血小板減少(DIC)、肝障害を訴えて来院した。肝生検では肝実質に類上皮細胞肉芽腫の形成がみられ、組織学的にQ熱、ブルセラ症あるいは非結核性抗酸菌症が疑われた(図29)。 患者本人の希釈血清を利用した酵素抗体法(間接法)で、肝組織のマクロファージに貪食される原虫に一致した陽性所見が観察され、組織学的に内臓リーシュマニア症(Kala azar)が疑われた(図30)。 血清抗体価の検討でリーシュマニア症と確定診断された。

図29
図30
  Leishmania donovani infection (Kala azar)
   Microgranulomas are formed in the liver parenchyma. Diffuse activation of Kupffer cells is associated (HE).
  Leishmania donovani infection (Kala azar)
  The 1:500 diluted patien's own serum detects granular (round-shaped) pathogens in the cytoplasm of macrophages in the microgranulomas, strongly suggesting visceral leishmaniasis (indirect immunoperoxidase). The diagnosis was confirmed serologically.
 内臓型リーシュマニア症は熱帯〜亜熱帯に広く分布するLeishmania donovani による予後不良の全身感染症である。肝、脾、骨髄など全身のマクロファージに感染する。発熱、脾腫、肝・リンパ節腫大、浮腫、皮膚色素沈着、下痢、汎血球減少症(脾機能亢進症)を伴う。本症には、インド型、東アフリカ型、地中海・中央アジア型、アメリカ型の4型がある。インド型はヒトのみが宿主で、致死率が高い。東アフリカでは齧歯類が保虫宿主で、ヒトには急性劇症型発症が多い。ユーラシア大陸と中南米ではイヌが保虫宿主であり、小児に亜急性〜慢性の病態が成立する。

 5) アカントアメーバ脳炎
 アルコール性肝硬変患者(60歳男性)に観察されたアカントアメーバ脳炎を示す。進行性の左片麻痺で発症し、減圧開頭術と脳生検が施行された。CTで、右半球に多発性低吸収域と脳腫脹を認め(図31)、多発性脳出血を続発して全経過2ヶ月で死亡した。生検脳組織には血管周囲性に慢性炎症所見がめだつが、多核巨細胞反応はみられない。血管周囲性に栄養体と嚢子が観察された(図32、33) 患者本人の血清(1000倍希釈)を用いた酵素抗体法間接法で、原虫体と食細胞に貪食された虫体成分が陽性だった(図34)。 Acanthoamoeba culbertsoni マウス抗血清でも陽性所見を得たが、A. polyphaga 抗血清とA. castellani モノクローナル抗体には陰性だった。患者血清中の抗体価もA. culbertsoni に対してのみ高値だった。以上、本例はA. culbertsoni による日和見脳炎が確定された[9]。
図31
図32
  Acanthamebic meningoencephalitis
  Multiple low density areas and marked brain edema are seen in the right hemisphere (CT scan). The patient died of brain hemorrhage two months later.
  Acanthamebic meningoencephalitis
  Infiltration of lymphocytes and macrophages is observed, in association with hemorrhage and marked edematous change (HE, low power).

図33

図34
  Acanthamebic meningoencephalitis
   Some of the large round cells around small vessels, resembling macrophages, possess round nuclei with central karyosome, a characteristic microscopic feature of protozoa (HE, high power).
  Acanthamebic meningoencephalitis
   The 1:1,000 diluted patient's own serum stains the amebic cells and the cytoplasm of macrophages phagocytizing the amebic antigens (indirect immunoperoxidase). Serologic study confirmed a high titer against A. culbertsoni.
 アカントアメーバ類による中枢神経系感染症として肉芽腫性アメーバ性脳炎が知られている。CT上、腫瘤状陰影を示す。本症は、エイズなどの免疫不全状態患者に主として日和見感染する。嚢子の気道内吸引あるいは皮膚への感染から血行性に脳炎が生じ、二次的に髄膜炎を随伴する。本症では脳組織の血管周囲性に栄養体と嚢子がともに観察される。栄養体は単核で、一見マクロファージに似る。嚢子はやや小型で外壁が波打ってみえる。

6) 細胞診で確定されたノカルジア症
図35
 潰瘍性大腸炎に対するステロイド加療中23歳男性が、発熱、呼吸困難を訴えた。左肺上葉に異常陰影を認めた。膿性喀痰が目立つため、喀痰細胞診に対して、通常のパパニコロウ染色に加えて、グロコット染色が追加された。グロコット染色で、好中球に混じて、細長く分岐する糸状菌が観察された(図35)。 病歴とあわせて、ノカルジアによる日和見感染が強く疑われた。その後の喀痰培養検査でNocardia asteroides が証明され、診断が確定した。サルファ剤投与で病変は治癒した[10]
  Nocardiosis of lung
 
 Grocott-stained cytological preparation reveals thin, filamentous and lamifying argyrophilic bacteria, strongly suggestive of nocardiosis.

 細胞診断が感染症の確定に貢献した実例である。この症例に果たした細胞検査士の役割と彼のアカデミックマインドは大いに評価されるべきである。好気的微生物であるノカルジアは、グラム陽性、抗酸菌染色弱陽性で、通常、日和見感染する。嫌気的な放線菌と異なり、硫黄顆粒(グレイン)はつくらない。
7) ジフテリア
図36
 急速に進行する呼吸困難で来院した68歳男性死亡例(1999年岐阜)を提示する。高度の白色偽膜形成により気管内挿管は困難だった。病理診断に提出された咽頭偽膜は、よく保たれた重層扁平上皮粘膜表面に付着する分厚いフィブリン様塊だった(図36)。 HE染色では弱好酸性の背景に弱好塩基性構造物が散布しており、これらはグラム陽性長桿菌だった(図37)。 本グラム陽性桿菌は異染小体陽性で、走査電顕的に鞭毛を欠き一側ないし両端が棍棒状に膨隆するジフテリア菌に一致した(図38)。 さらに、抗ジフテリア毒素抗体に反応し、ジフテリア毒素遺伝子に対するPCR陽性が確認された。本例では細菌学的な培養検索が行われておらず、病理組織診断の重要性・有用性が示された。直接診断を担当された名古屋大学附属病院病理部、伊藤雅文博士のプロとしてのこだわりに敬意を表したい。

Diphtheria
 The pharyngeal mucosa demonstrates thick pseudomembrane attachment and relatively mild inflammatory reaction (HE).

図37

図38
  Diphtheria
   Numbers of large-sized Gram-positive rods are embedded within the pseudomembrane (Gram).
  Diphtheria
  Scanning electron micrograph of a club-shaped rod without flagella or capsule, being consistent with the Corynebacterium species ("coryne" means club).
 グラム陽性桿菌であるジフテリア菌は、咽頭、喉頭、気管や鼻粘膜で局所的に増殖して、特徴的な厚い偽膜を形成する。ここで産生されるジフテリア毒素が血流に入って、心筋や運動系脳神経が冒される。死因には偽膜による窒息、心筋障害、横隔神経麻痺がある。治療は抗血清投与につきる。予防には3種混合ワクチンが用いられる。1990年以降、旧ソビエト連邦では予防接種率の低下と社会的混乱が相まって、ジフテリアが大流行している。

8) レジオネラ肺炎
 未熟児に院内感染として生じたレジオネラ肺炎を示す。剖検時の肺には、貪食細胞のびまん性浸潤が観察された。病理医がレジオネラ肺炎の可能性を疑い、Warthin-Starry鍍銀染色を行ったことが最終診断につながった。
   「在郷軍人病」は、グラム陰性小桿菌であるLegionella pneumophila の経気道感染症である。胸部X線上、巣状肺炎、異型肺炎ないし大葉性肺炎の形をとる。診断確定には、血中抗体価測定とともに、開胸肺生検が行われる。組織学的に、大葉性肺炎に類似した好中球、マクロファージおよびフィブリンの肺胞内急性滲出が特徴である。好中球の破壊と濃厚な蛋白質成分の滲出が目立つ(図39)
 Warthin-Starry鍍銀染色あるいは免疫染色によりレジオネラを証明することが形態的確定診断となる(図40)。 偏性細胞内寄生性病原体であるレジオネラの水中での増殖には、自由生活アメーバ栄養体が介在する。空調設備の冷却水がレジオネラで汚染されエアロゾルが大気中に拡散すると、空気感染を介した院内感染の原因となる(図41) 消毒剤はアメーバ内のレジオネラには無効である。アメーバは40〜45℃の温水中で増殖しやすい。散発型レジオネラ肺炎患者の多くに、発症直前の温泉利用歴がある。24時間風呂や加湿器の危険性も指摘されている。
図39

Legionella pneumonia
 The lung is massively infiltrated by macrophages (HE). This nosocomial infection was transmitted through moist air supplied to the couveuse.

図40

図41
  Legionella pneumonia
  Numerous short rods are seen in the cytoplasm of alveolar macrophages (Warthin-Starry's silver).
  Relationship between Legionella pneumophila and free-living ameba in warm water
  The free-living ameba likes 42℃ (hot spring water), and L. pneumophila requires the ameba for replication. L. pneumophila belongs to the obligate intracellular bacteria, so that ameba or macrophages are definitely needed for them to grow. Hot spring bathing is a risk factor of Legionella pneumonia in the aged.


おわりに
 病理診断の領域に限らず、感染症は何かと軽視されがちな傾向にある。緒言にも述べたとおり、世界的には感染症が最重要疾患であることは明らかである。国際貢献をめざす医師が日本からもどんどん育ってほしいので、感染症に興味をもち、積極的にとり組んでくれる学生、研修医が少しでも増えてくれることを切望する。終末期医療に感染症がつきものだし、院内感染は回避されねばならない大きな課題でありつづけるだろう。感染症対策には、実践に基づいた知識が肝要である。この小文の問いかけに対する受容体をもつ医学生、研修医の諸君、ぜひ、感染症の領域で一緒に仕事をしましょう[11]

参考文献
1)
堤寛.感染症病理アトラス.文光堂、東京、2000(全349ページ)
2)
堤寛.免疫組織化学.感染症診断への応用.病理と臨床 2000; 18(臨増): 216-222.
3)
堤寛.In situ hybridization.感染症診断への応用.病理と臨床 2000; 18(臨増): 277-283.
4)
「医療の安全に関する研究会」安全教育分科会.ユニバーサルプレコーション実践マニュアル新しい感染予防対策.南江堂、東京、1998.
5)
堤寛.病院でもらう病気で死ぬな.現役医師が問う、日本の病院の非常識度.角川oneテーマ21(A-11)、東京、2001.
6)
堤寛.結核のバイオハザード対策.医学のあゆみ 2001; 198: 213-219.
7)
堤寛.性感染症 (STD):顕微鏡による同定.免疫組織化学と in situ hybridization 法.臨床検査 1996; 40: 679-686.
8)
Hori S, et al. Histological differentiation between chlamydial and bacterial epididymitis: Nondestructive and proliferative versus destructive and abscess forming. Immunohistochemical and clinicopathological findings. Hum Pathol 1995; 26: 402-407.
9)
Tsutsumi Y, et al. Acanthoamebic meningoencephalitis associated with alcoholic liver cirrhosis. Pathol Case Review 2002; 7: 273-277.
10) 堤寛.症例から学ぶ感染症の細胞診断.日本臨床細胞学会広島県支部会報 2002; 23: 1-9.
11)
堤寛.感染症診断における病理の役割. Medical Technology 2002; 30: 119-127.

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