胸水中に出現した骨髄腫細胞のアポトーシス(胸水のcell block標本に対するHE染色).赤血球に混じて播種する骨髄腫細胞の核は、クロマチンが核周囲に濃縮する、アポトーシスに特徴的な形態変化を呈している。細胞質に大きな変化はみられない。
back
next

アポトーシスの組織化学的証明法
〜TUNEL法,in situ nick translation法および免疫組織化学染色〜

堤 寛 Yutaka Tsutsumi, M.D.,
鴨志田伸吾 Shingo Kamoshida
藤田保健衛生大学 医学部 第一病理学


INDEX
 はじめに
 1.TUNEL(TdT-mediated dUTP-biotin nick end labeling)法
 2.ISNT(in situ nick translation)法
 3.Single-stranded DNA、cleaved caspase 3などの免疫組織化学染色
 4.アポトーシスの組織化学における増感法と前処理による影響
 まとめ
 文献
 図の説明



はじめに


  アポトーシスapoptosisは、apo(off、離れる)とptosis(falling、落ちる)を合成した術語で、"生"の象徴であるmitosis(有糸分裂)に対比させられている。アポトーシスは、生体の中で不要となった細胞を除去する生体制御機構であり、突然変異や傷害を受けて異常となった細胞を排除する生体防御の意義も兼ね備えている。すなわち、正常・異常細胞の自己消去機能による"生の更新"がアポトーシスの本質といえる。形態発生学の領域のみならず、医学の分野においても、病態の成立機序、診断や治療に関するアポトーシスの生物学的意義が論じられている。アポトーシスに関する研究を行うためには、アポトーシスを正確かつ鋭敏に検出する組織化学的手技の確立が重要である。

 アポトーシスはネクローシスnecrosisと異なる細胞死として形態学的観察から提起されたため、その検出も当初は核の形態学的変化(核周辺部へのクロマチンの凝縮margination)に基づいて行われた。エンドヌクレアーゼ活性によるヌクレオソーム(約180 塩基対)単位のDNA断片化がアポトーシスを特徴づける。アポトーシスの組織化学的証明法は、terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated deoxyuridine triphosphate-biotin nick end labelling(TUNEL)法、ついでin situ nick translation (ISNT)法が開発された。TUNEL法については現在、数多くの染色キットが市販されている。アポトーシス細胞に集積する単鎖DNA(single-stranded DNA)を免疫組織化学に検出することも可能である。

 一方、アポトーシスの過程において生じるエネルギー依存性の生化学的・形態学的変化の多くは、カスパーゼcaspase類による特定の蛋白質の限定分解による。切断・活性化されたcaspase 3は、poly (ADP-ribose) polymerase (PARP)、cytokeratin 18(CK18)やactinといった細胞内蛋白質を限定分解する中心的役割を担う。したがって、これら切断された分子を特異的に認識する抗体を用いると、アポトーシス細胞を免疫組織化学的に同定することができる。

 いいかえると、アポトーシスの主要な実行過程はDNA断片化とカスパーゼによる蛋白質の限定分解カスケードであり、アポトーシスの組織化学的証明法もこの2つの現象のいずれかに依存している(表1)。アポトーシス制御蛋白質であるp53蛋白、Rb蛋白、bcl-2蛋白、bcl-xL蛋白、bax蛋白、c-myc蛋白、cyclin類などに対する免疫染色では、アポトーシス自体を可視化することはできない。

表1.アポトーシスの組織化学的同定法(対象=ホルマリン固定パラフィン切片)


 1.DNA断片化を証明する
    TUNEL、ISNT、single-stranded DNA (ssDNA)免疫染色
 2.アポトーシスに伴う酵素的イベントを免疫染色で証明する
    cleaved caspase 3(細胞質)、cleaved PARP(核)
    細胞骨格:cleaved cytokeratin 18 (CK18)、cleaved actin (fractin)


  アポトーシスの組織化学的証明法には、しかし、固定の影響のほか、切片に対する前処理の影響を含めたさまざまな技術的な落とし穴があることも事実であり、方法論・マーカー相互の間での染色結果の不一致もしばしば経験される。本稿では、通常のホルマリン固定パラフィン切片に応用可能なアポトーシスの組織化学的証明法を紹介するとともに、方法論相互の比較、落とし穴・特異性・限界を紹介する。

 ちなみに、アポトーシスを論じる際には、常に増殖をくり返しているrenewing cell(腸上皮、表皮、造血細胞、精母細胞、癌細胞など)、ふだんは増殖しないが必要に応じて増殖できるstabilized cell(線維芽細胞、内皮細胞、尿細管上皮細胞、肝細胞など)、そして増殖能のないstable cell(神経細胞、卵細胞、心筋細胞など)の3種の細胞群に分けて観察する必要がある。(表2)

 
なぜなら、renewing cellでは増殖速度に応じたアポトーシスが生理的に(恒常的に)生じているのに対して、stable cellにおけるアポトーシスは非生理的と考えられるからである。

表2.増殖能からみた3種の細胞群
 Renewing cells  精母細胞、骨髄細胞、胚中心細胞、胸腺皮質、消化管粘膜上皮、表皮、毛嚢
 
 Stabilized cells
 肝細胞、腎尿細管上皮、線維芽細胞、血管内皮、脂肪細胞、平滑筋細胞、
 シュワン細胞、グリア細胞、など
 Stable cells

 卵細胞、横紋筋細胞、神経細胞




1.TUNEL(TdT-mediated dUTP-biotin nick end labeling)法

原理
 
DNAのdouble-stranded break(二本鎖切断端)にterminal deoxynucleotidyl transferase (TdT)を用いてビオチン標識deoxyuridine triphosphate (dUTP)を付加させる。ビオチン化DNA伸長鎖にペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを結合させて、過酸化水素とジアミノベンチジン(DAB)で発色させる(図1)。TdTは胸腺皮質由来の鋳型を必要としないDNA polymeraseであり、DNAの3'-断端にビオチン化dUTPが多数付加される。
図1: TUNEL法の原理図
染色手順
@パラフィン切片をシランコートスライドガラスに貼付
Aパラフィンオーブン内で一晩乾燥
B脱パラフィン(95%エタノールまで)
C0.3%過酸化水素加メタノール、室温30分
 *この間に、37℃インキュベーターの電源を入れ、20 mg/mLプロテイナーゼKをつくる。
D流水洗、5分、50 mMトリス塩酸緩衝生理食塩水(TBS)を通す
E20 mg/mLプロテイナーゼK、室温15分(湿潤箱中)
 *この間に、TdT緩衝液とTdT反応液をつくり、冷蔵庫に保存しておく。
F流水洗、5分、蒸留水を通す
GTdT緩衝液、室温5分(湿潤箱中)
HTdT反応液、37℃60分(湿潤箱中)
I2x SSC、室温15分
J10 mMリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄、2分3回
Kペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン溶液、室温15分(湿潤箱中)
LPBS洗浄、2分3回
MDAB発色、5分
N流水洗、5分
Oヘマトキシリンで軽く核染(10〜20秒程度)、脱水、透徹、封入
Pパラフィン伸展器上で封入剤を乾燥・固化、70℃10分


試薬の調整
1)
0.3%過酸化水素加メタノール:メタノール99 mLに30%過酸化水素水を1 mL加える。
2)
TBS(pH 7.6):トリスアミノメタン18.2 gを300 mLの蒸留水に溶解し、塩化ナトリウムを24.0 g加える。2 N塩酸を加えてpH 7.6に調整し、蒸留水で全量を3,000 mLにする。
3)
20 mg/mLプロテイナーゼK:プロテイナーゼK(ロシュ・ダイアグノスティックス社、#745723) 100 mgをTBS 10 mLで溶解し(10 mg/mL)、少量ずつ分注して−20℃で保存する。使用直前にTBSで500倍希釈する。
4)
TdT緩衝液:カコジル酸ナトリウム・3水和物1.5 gと塩化コバルト12 mgを10 mLの30 mMトリス塩酸緩衝液(pH 7.2、トリスアミノメタン3.64 gを100 mLの蒸留水に溶解する。1N塩酸を加えてpH 7.2に調整し、蒸留水で全量を1000 mLにする。) に溶解する(5x TdT緩衝液、分注して−20℃保存)。使用時に30 mMトリス塩酸緩衝液で5倍希釈する(140 mMカコジル酸ナトリウム、1 mM塩化コバルト)。
5)
TdT反応液:15 U/mL TdT(インビトロジェン社、#10533-065、−20℃保存)1 mLと1 mM ビオチン-16-dUTP(ロシュ・ダイアグノスティックス社、#1093070、−20℃保存) 2 mLをTdT緩衝液に使用直前に加えて100 mLとする(0.15 U/mL TdT、0.02 mM ビオチン-16-dUTP)。
6)
2x SSC:塩化ナトリウム17.53 gとクエン酸ナトリウム・2水和物8.82 gを蒸留水1000 mLに溶解する(300 mM塩化ナトリウム、30 mMクエン酸ナトリウム)。
7)
PBS (pH 7.2):リン酸二水素ナトリウム・2水和物3.3 g、リン酸水素二ナトリウム・12水和物28.7 gおよび塩化ナトリウム85 gを蒸留水で溶解し、全量を10 Lとする。
8)
ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン溶液:ニチレイ社の調整ずみ試薬(#426061)をそのまま使用する。
9)
DAB溶液:ダコ・サイトメーション社の市販品(#K3465)を使用する。使用直前に、基質緩衝液1mLにつきDAB発色基質溶液を1滴(20 mL)の割合で加え、よく混和する。


陽性対照
:上記手順Fの後に、500 ng/mL DNaseT溶液(下記)で37℃15分反応させる。すべての核が陽性となる(図2)

陰性対照
:上記TdT反応液からTdTを除いたものを反応させる。
  図2: TUNEL法 (慢性扁桃炎)
   
試薬の調整
1)
DNaseT緩衝液:塩化ナトリウム0.58 g、塩化マグネシウム・6水和物1.02 g、塩化カルシウム10 mgおよび塩化カリウム1.86 gを1000 mLの10 mMトリス塩酸緩衝液(pH 7.4、トリスアミノメタン1.21 gを100 mLの蒸留水に溶解する。1 N塩酸を加えてpH 7.4に調整し、蒸留水で全量を1000 mLにする)に溶解する(10 mM塩化ナトリウム、5 mM塩化マグネシウム、0.1 mM塩化カルシウム、25 mM塩化カリウム)。
2)
500 ng/mL DNaseT溶液:DNaseT緩衝液にDNaseT(ロシュ・ダイアグノスティックス社、#1284932、−20℃保存)を50 mg/mLになるように溶解し、分注して−20℃保存する(DNaseT保存液)。DNaseT保存液を使用直前にDNaseT緩衝液で100倍希釈する。

注意事項
1) インビトロジェン社の TdTに添付されている5x TdT緩衝液を使用すると、染色性が低下する。TdT緩衝液は自家調整した方がよい。
2) 過酸化水素水、TdT反応液・TdT緩衝液(砒素化合物であるカコジル酸ナトリウムを含む)およびDABのとり扱いには、十分な注意が必要である。

TUNELの増感法
 Gavrieliらの原法では、プロテイナーゼKによる前処理が用いられている。Straterら、Negoescuらは、クエン酸緩衝液(pH 6.0)中でのマイクロウェーブ処理による増感法を報告した。Lucassenらは、マイクロウェーブ処理とプロテイナーゼKとの二重処理の効果は、マイクロウェーブ単独処理とかわらないこと、加熱溶液としてはpH 3.0、6.0、9.0のクエン酸緩衝液ないしトリス塩酸緩衝液がよいが、臓器によってマイクロウェーブ処理の至適条件が異なること、加熱処理後の急冷によって背景染色が抑えられること、プロテイナーゼK処理は20 mg/mL, 15分が最適であることを報告している。また、Umemuraらは、プロテイナーゼK処理後のmung bean nuclease(一本鎖DNA消化酵素)による処理が増感効果を示すと報告した。



2.ISNT(in situ nick translation)法

原理
 4種の塩基、すなわち、ビオチン標識dUTP 、deoxycytidine triphosphate (dCTP)、deoxyguanosine triphosphate (dGTP)、およびdeoxyadenosine triphosphate (dATP)の存在下で、DNA polymeraseを用いて、single-stranded break(DNA単鎖切断端)にビオチン標識dUTPを含むDNA鎖を伸長させる。大腸菌DNA polymeraseがexonuclease活性を合わせもつため、3'-単鎖切断端から5'→3'方向に、非切断部塩基配列を鋳型としてDNA鎖が伸長する(図3)
  図3: ISNT法の原理図
   

染色手順
@パラフィン切片をシランコートスライドガラスに貼付
Aパラフィンオーブン内で一晩乾燥
B脱パラフィン(95%エタノールまで)
C0.3%過酸化水素加メタノール、室温30分
 *この間に、37℃インキュベーターの電源を入れ、20?/mLプロテイナーゼKをつくる。
D流水洗、5分、50 mMトリス塩酸緩衝生理食塩水(TBS)を通す
E20 mg/mLプロテイナーゼK、室温15分(湿潤箱中)
 *この間に、DNAポリメラーゼT希釈用緩衝液とDNAポリメラーゼT反応液をつくり、冷蔵庫に保存しておく。
F流水洗、5分、蒸留水を通す
GDNAポリメラーゼT希釈用緩衝液、室温5分(湿潤箱中)
HDNAポリメラーゼT反応液、37℃60分(湿潤箱中)
I10 mMリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄、2分3回
Jペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン溶液、室温15分(湿潤箱中)
KPBS洗浄、2分3回
LDAB発色
M流水洗、5分
Nヘマトキシリンで軽く核染(10〜20秒程度)、脱水、透徹、封入
Oパラフィン伸展器上で封入剤を乾燥・固化、70℃10分

試薬の調整
1)
0.3%過酸化水素加メタノール、TBS、20 mg/mLプロテイナーゼK、PBS、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン溶液、DAB溶液:「TUNEL法」を参照。
2)
DNAポリメラーゼT希釈用緩衝液:塩化マグネシウム・6水和物102 mg、2-メルカプトエタノール78 mg、ウシ血清アルブミン5 mgを20 mLの50 mMトリス塩酸緩衝液(pH 7.5、トリスアミノメタン6.07 gを100 mLの蒸留水に溶解する。1N塩酸を加えてpH 7.5に調整し、蒸留水で全量を1000 mLにする)に溶解し、分注して−20℃保存する。使用時に50 mMトリス塩酸緩衝液で5倍希釈する(5 mM塩化マグネシウム、10 mM 2-メルカプトエタノール、0.005%ウシ血清アルブミン)。
3)
DNAポリメラーゼT反応液:9 U/mL E.coli DNAポリメラーゼT(東洋紡、#DPL-101)5 mL、10 mM dATP(Gibco BRL社、#18252-015)1 mL、10 mM dGTP(Gibco BRL社、#18254-011)1 mL、10 mM dCTP(Gibco BRL社、#18253-013)1 mL、1 mM ビオチン-16-dUTP(ロシュ・ダイアグノスティック社、#1093070)1 mLを使用直前に1 mLのDNA polymeraseT希釈用緩衝液に加える(50 U/mL DNAポリメラーゼT、0.01 mM dATP、0.01 mM dGTP、0.01 mM dCTP、0.01 mM ビオチン-16-dUTP)。

陽性対照:DNase処理については「TUNEL法」を参照。切片の圧力鍋による加熱でもすべての核が陽性となる。
陰性対照:上記DNA polymeraseT反応液からDNA polymeraseTを除いたものを反応させる。

注意事項
過酸化水素水、メルカプトエタノールおよびDABのとり扱いには、十分な注意が必要である。



3.Single-stranded DNA、cleaved caspase 3などの免疫組織化学染色

酵素抗体法アミノ酸ポリマー法の原理

 特異抗体(一次抗体)を切片上の抗原に結合させ、そこに多数のペルオキシダーゼと二次抗体を標識したアミノ酸ポリマー試薬を反応させたのちに、過酸化水素とDABで発色させる。

染色手順
@パラフィン切片をシランコートスライドガラスに貼付
Aパラフィンオーブン内で一晩乾燥
B脱パラフィン(95%エタノールまで)
C0.3%過酸化水素加メタノール、室温30分
 *この間に、加熱処理(圧力鍋)の準備をする。
D流水洗、5分
E前処理(抗原により至適条件が異なる)

  1) single-stranded DNA(以下のいずれか):
    a) 10 mMクエン酸緩衝液pH 7.0中で60℃10分加熱
    b) 0.6%フィシン液pH 7.4、37℃30分(図4)
    c) 500 ng/mL DNaseT溶液(「TUNEL法」参照)、37℃15分
  2) cleaved caspase 3(図5)、cleaved PARP、cleaved cytokeratin 18 (CK18)、cleaved actin (fractin):
    1 mM EDTA溶液, pH 8.0中で圧力鍋処理(120℃)、10分。その後、圧力鍋からステンレス容器ごととりだし、室温で30分放置する。
 
図4: ssDNA 免疫染色(慢性扁桃炎)

図5: 正常小腸絨毛におけるTUNEL法(左)と
cleaved caspase 3免疫染色(右)

 

この間に一次抗体を希釈調整する。抗single-stranded DNA家兎血清(ダコ・サイトメーション社, #A4506):2,000倍希釈, 抗cleaved caspase 3家兎血清(Cell Signaling社, #287015):400倍希釈、抗cleaved CK18モノクローナル抗体(M30、ロッシュ・ダイアグノスティック社、#2140322):100倍希釈、抗cleaved PARPおよび抗cleaved actin (fractin)家兎血清(Dr. Greg M. Cole、UCLA提供):10,000希釈
  抗体の至適希釈濃度は常温で一晩反応する場合。反応時間を1時間とする場合は、4〜5倍濃い濃度が必要である。

F流水洗、5分
GPBS洗浄、2分2回
H一次抗体の反応、室温一晩(湿潤箱中)
IPBS洗浄、2分3回
Jペルオキシダーゼ・二次抗体結合アミノ酸ポリマーの反応、室温15分
KPBS洗浄、2分3回
LDAB発色
M流水洗、5分
Nヘマトキシリンで核染、脱水、透徹、封入
Oパラフィン伸展器上で封入剤を乾燥・固化、70℃10分

圧力鍋を用いた加熱処理
 圧力鍋(T-FAL、Delicio、6 L用)に全容量の1/3〜1/2程度水を入れ、その中に加熱溶液を満たしたステンレス製容器を入れる。鍋に軽く蓋をして(ロックしないこと)、沸騰させる。切片を容器に入れ、鍋の蓋をしてロックする。強火で加熱し、蒸気が噴きだしたら弱火にする。10分間の加圧・加熱(約120℃)ののちに火を止める。中の蒸気を完全に抜いたあとで、鍋の蓋をとる。とりだした切片を急激に冷やさないことがコツの一つである。

試薬の調整
1)
0.3%過酸化水素加メタノール、PBS、DAB溶液:「TUNEL法」を参照のこと。
2)
(水酸化ナトリウム加)10 mMクエン酸緩衝液、pH 7.0:0.01 Mクエン酸緩衝液(pH 6.0)1 Lに1 N水酸化ナトリウムを加え、pH 7.0に調整する。
3)
0.6%フィシン溶液:ficin溶液(Sigma社、F-4125)を0.01 Mリン酸緩衝液(pH 7.4)で希釈し、0.6%(w/v)とする。
4)
1 mM EDTA溶液、pH 8.0:EDTA(エチレンジアミン四酢酸)・二ナトリウム(同仁化学社)0.37 gを蒸留水1 Lに加え、1 N水酸化ナトリウムでpH 8.0に調整する。EDTA・二ナトリウムはpH 8.0付近にならないと溶解しない。
5)
抗体希釈液(1%ウシ血清アルブミン加PBS):PBSにbovine serum albumin (Sigma社) を1%の割合に加え、溶解するまで放置してから撹拌する。
6)
ペルオキシダーゼ・二次抗体結合アミノ酸ポリマー:ニチレイ社の調整済み試薬[ヒストファインシンプルステインMAX-PO (MULTI), #424151]をそのまま使用する。

陽性対照
扁桃、壊死性リンパ節炎、バーキットリンパ腫などのホルマリン固定パラフィン切片
陰性対照:一次抗体の代わりに、同種動物の非免疫(正常)血清を同一希釈倍率あるいは同一免疫グロブリン濃度で用いる。


注意事項:
1)
EDTA溶液中での加熱処理では切片が剥がれやすくなるので、なるべく薄い切片をシランコートスライドガラスに添付し、60℃で一晩から数日乾燥させる。
2)
EDTA加熱処理後は、ヘマトキシリンの染色性が著しく低下する。クエン酸緩衝液中での加熱の場合より、5倍程度長めの染色時間(1分程度)を要する。
3)
EDTA液中での加熱処理により、内因性ビオチンの反応性も復活してしまう(とくに、腎および肝)。したがって、cleaved caspase 3などの免疫染色には、ストレプトアビジンを利用した検出法の使用はできれば避けたい。
4)
内視鏡的生検材料では、すべての細胞核にsingle-stranded DNAの陽性反応が検出されてしまうことがある(おそらく、採取時の機械的刺激による)。
5)
過酸化水素水およびDABのとり扱いには、十分な注意が必要である。

ポトーシス関連抗原の特徴
1)
single-stranded DNA (ssDNA):DNA鎖にdouble-stranded breakが生じると、断端部にsingle-stranded stretchが形成される。この部分に抗体が反応するためには、最低3塩基のsingle-stranded stretchが必要である(TdTが1塩基でも、blunt endでも反応するのと対照的)。また、ピリミジンポリヌクレオチドには反応するが、プリンポリヌクレオチドには反応しない。
2)
cleaved caspase 3:caspase 3はアポトーシスのキー酵素である。アポトーシスが生じると、他のcaspase群(caspases 6,8,9,10)によって切断・活性化されて、cleaved caspase 3となる。このcleaved caspase 3はさらに諸種の細胞内蛋白質を限定分解する。基質としては、70種類以上の核内・細胞質内蛋白質が知られている。PARP、CK18、actinは代表的な基質となる。
3)
poly(ADP-ribose) polymerase (PARP):PARPは核内蛋白のポリADPリボシル化を司る酵素で、アポトーシス細胞においてcleaved caspase 3によって限定分解されて活性型cleaved PARPとなる。
4)
cleaved cytokeratin 18 (CK18):円柱上皮に発現する低分子量サイトケラチンであるCK18は、cleaved caspase 3に切断されてcleaved CK18となる。抗cleaved CK18抗体は、アポトーシスに陥った円柱上皮細胞や腺癌細胞の細胞質をびまん性に染色する。当然ながら、非上皮細胞には用いられない。
5)
cleaved actin (fractin):actinはすべての細胞に発現する細胞骨格蛋白(マイクロフィラメント)である。Cleaved caspase 3はactinを限定分解して、cleaved actin (fractinとも称される)を形成する。



4.アポトーシスの組織化学における増感法と前処理による影響
 表3、4に、アポトーシスの組織化学における増感法(至適前処理)と諸種の前処理による染色結果への影響(陽性対照のとり方)を一覧する。

表3.アポトーシスの組織化学における増感法(至適前処理)一覧
 検出法  増感法
文 献
 TUNEL法  Mung bean nuclease(一本鎖DNA消化酵素)処理
 クエン酸緩衝液(pH 6.0)中での120℃10分加熱
11
8-10
 ISNT法  報告なし
 Single-stranded DNA  クエン酸緩衝液(pH 7.0)中での60℃10分加熱
 ficin処理
 DNase処理


15
 Cleaved caspase 3  EDTA, pH 8.0中での加熱処理(PARPには、0.5%過ヨウ素酸処理10分も有効)
16-20
 Cleaved CK18
 Cleaved PARP
 Cleaved actin (fractin)

表4.前処理による影響
 120℃加熱  60℃加熱  DNase  蛋白分解酵素
 TUNEL法
 ISNT法
 ssDNA
 cleaved proteins
 増感
 すべての核
 すべての核
 必須
  〜
 増感
 増感
 無効
 すべての核
 すべての核
 増感
  〜
 PK必須
 PK必須
 増感
 しばしば失活
 PK=proteinase K


5.方法論間の比較と留意点

 人工産物による偽陽性所見は、とくにDNA断片化を証明する方法論(TUNEL、ISNTおよびssDNA免疫染色)に認められやすい。ssDNAの免疫染色はとくに人工産物が生じやすい。固定や自家融解によってDNAの分解・切断が生じるためと考えられる(図6)。カスパーゼによる細胞内蛋白質の限定分解カスケードを証明する免疫染色では、このような人工産物が生じにくい。表5に、代表的な人工産物をまとめた。
図6:膵臓の自家融解部におけるssDNA免疫反応性
(左:HE染色、右:ssDNA)


  表5.代表的な人工産物


 1. 偽陰性:おそらく、過固定による
   薄切した切片の長期常温保存にも注意が必要
 2. 偽陽性、とくにssDNAに多い(切片周辺の過固定部、生検標本、しばしば正常組織)
 3. 電気メスの当たった部位(DNAの熱変性部)
   TUNEL、ISNTの陽性化
   DNase処理をしたssDNA免疫染色
 4. 自家融解部にssDNA陽性
 5. リポフスチンにcleaved PARP陽性(ただし、モノクローナル抗体の場合)

 方法論間の不一致もしばしば経験される。一般的なコメントを表6にまとめた。

 表6.方法論間の不一致

 
1. 壊死でもアポトーシスマーカーが陽性となる。
 2. 壊死でも、腔内に集簇した壊死細胞、凝固壊死、液化壊死などで反応パターンが異なる。
 3. cleaved caspase 3やcleaved CK18(上皮細胞)はTUNEL、ISNTやssDNAより陽性細胞数が多い。
 4. cleaved actinはアポトーシスの終末期に増強する。
 5. cleaved蛋白に対する免疫染色は手軽で再現性がよい。
 6. 検索マーカーの分布が完全に一致することはまれである。


  Cleaved蛋白に対する免疫染色、とくにcleaved caspase 3とcleaved CK18(円柱上皮の場合)は手技的に簡便で染色感度が高いために、再現性の高い成績が得られる。ともに細胞質に陽性となるため、TUNEL法との二重染色が可能である。一般に、cleaved caspase 3とcleaved CK18の陽性細胞数は、TUNEL、ISNTやssDNA陽性細胞より多い。Cleaved PARPおよびcleaved actin (fractin)はcleaved caspase 3とcleaved CK18に比して陽性細胞が少なく、アポトーシスの終末期(いわゆる壊死細胞と認識されるような剥離細胞)に陽性となる傾向がある。例として、乳腺面皰癌の"壊死細胞"、扁桃の重層扁平上皮表層部の剥離細胞がfractin陽性となるが、形態学的に認識可能なアポトーシス細胞(胚中心や癌細胞のアポトーシス)はfractin陰性である(表7)

 表7.方法論間の解離・不一致例

 
1. 胚中心:cleaved actin陰性
   (重層扁平上皮表層部は陽性、壊死性リンパ節炎は陽性)
 2. 小腸陰窩にみられた病的アポトーシス(腸穿孔症例):
   TUNEL、ssDNA陽性、ISNT陰性
   cleaved caspase 3、cleaved CK18陽性、cleaved actin陰性
 3. 乳癌浸潤部:
   TUNEL、ISNT陽性、cleaved caspase 3陰性
 4. 結核の乾酪壊死巣:
   TUNEL、ssDNA陽性、cleaved caspase 3陰性
 5. アポトーシス小体を有するマクロファージの細胞質
   TUNEL陽性、ISNT、ssDNA陰性



 また、図7には、大腸腺癌(5-FU治療有効例で、癌細胞にアポトーシスがめだつ)におけるcleaved CK18とfractinの免疫染色を比較する。
 これらは、cleaved caspase 3による蛋白質の限定分解が同時進行するわけでないことを示している。Cleaved CK18は円柱上皮系細胞にのみ観察可能であるのに対して、その他のマーカーは細胞種によらず観察対象となる。
図7:抗癌剤5-FU投与後の大腸腺癌におけるcleaved cytokeratin 18(左)とcleaved actin(右)の比較.


 他の例として、結核の乾酪壊死巣をみてみよう。壊死巣はcleaved caspase 3は陰性だが、TUNEL法やssDNAは陽性となる(図8)。

 胚中心のtingible body macrophageをみると、TUNEL法ではアポトーシス小体とともにマクロファージの細胞質も陽性となる。ISNT法やssDNAではアポトーシス小体のみが染色される。
図8:肺結核の乾酪性肉芽腫におけるcleaved caspase 3
(左、加熱処理後)とssDNA(右、DNase処理後).




まとめ
 アポトーシスの組織化学的証明法の方法論とその落とし穴を紹介した。DNA切断を証明するアプローチは、アポトーシス現象の本質を証明する方法であり、アポトーシス組織化学の原点である。しかし、固定法や増感法を含めた技術論に不安定な側面があり、偽陽性・偽陰性反応を呈しやすい欠点を有している。一方、cleaved caspase 3をはじめとする一連の蛋白質限定分解カスケードの証明は、技術的には安定し、再現性の高い染色像が得られる傾向が明らかである。しかし、限定分解された蛋白質分子が細胞内に蓄積するタイミングは不揃いで、cleaved actinに代表されるように、アポトーシスの過程が進行した段階にならないと証明されないものもある。現在のところ、アポトーシスの組織学的証明には、あくまでTUNEL法を基本として、いくつかの方法論を複数種行うのがもっとも確実といえるだろう。




文献:

 総論
1)
川生明:アポトーシスの組織化学的検出.とくにISNT法について.組織細胞化学1995(日本組織細胞化学会編)171-177, 1995.
2)
田沼靖一(監),内海文彰,丸田英晴,塩川大介(編):細胞工学別冊実験プロトコールシリーズ.改訂アポトーシス実験プロトコール.秀潤社,1998.
3)
堤寛.細胞増殖とアポトーシス.stable cell, stabilized cellとrenewing cell.医学のあゆみ187: 463-464, 1998.
4)
三浦正幸,山田武(編):実験医学別冊Bio Science用語ライブラリー.アポトーシス.羊土社,2000.
5)
大槻勝紀,小路武彦,渡辺慶一(編):臓器別アポトーシス証明法.南江堂,2000.

 TUNEL法
6)
Gavrieli Y, Sherman Y and Ben-Sasson, SA: Identification of programmed cell death in situ via specific labeling of nuclear DNA fragmentation. J Cell Biol 119: 493-501, 1992.
7)
安田政実,堤 寛:TUNEL法.アポトーシスの組織化学的同定法.医学のあゆみ173: 658-659, 1995.

 TUNEL増感法
8)
Strater J, Gunthert AR, Bruderlein S, Moller P: Microwave irradiation of paraffin-embedded tissue sensitizes the TUNEL method for in situ detection of apoptotic cells. Histochemistry 103: 157-160, 1995.
9)
Negoescu A, Lorimier P, Labat-Moleur F, Drouet C, Robert C, Guillermet C, Brambilla C, Brambilla E: In situ apoptotic cell labeling by the TUNEL method: Improvement and evaluation on cell preparations. J Histochem Cytochem 44: 959-968, 1996.
10)
Lucassen PJ, Labat-Moleur F, Negoescu A, van Looleren Campagne M: Microwave-enhanced in situ end-labeling of apoptotic cells in tissue sections: Pitfalls and possibilities. In Shi S-R, Gu J, Taylor CR, eds. Antigen retrieval techniques. Eaton Publishing, Natick, MA, 2000.
11)
Umemura S, Yasuda M, Osamura RY, Kawarada Y, Sugiyama T and Tsutsumi Y: Enhancement of TdT-mediated dUTP-biotin nick end-labeling (TUNEL) method using mung bean neclease, a single-stranded DNA digestion enzyme. J Histochem Cytochem 44: 125-132, 1996.
 
  ISNT法
12)
Wijsman JH, Jonker RR, Kejzer R, Van de Velde CJH, Cornelisse CJ and Van Dierendonck JH: A new method to detect apoptosis in paraffin sections: in situ end-labeling of fragmented DNA. J Histochem Cytochem 41: 7-12, 1993.

  Single-stranded DNA
13)
Naruse I, Keino H and Kawarada Y: Antibody against single-stranded DNA detects both programmed cell death and drug-induced apoptosis. Histochemistry 101: 73-78, 1994.
14)
Umemura S, Osamura RY, and Tsutsumi Y: "Magentosis" in human lactating breast: A mode of cell death accumulating single-stranded DNA stretches or breaks. Pathol Int 46: 122-129, 1996.
15)
富永三千代、鴨志田伸吾、下村龍一、松山篤二、堤寛.Single-stranded DNAの免疫組織化学染色:DNase前処理による増感.第42回日本臨床検査医学会東海・北陸支部総会抄録集 p.46, 2003.
 
  Cleaved caspase 3
16)
Gown AM and Willingham MC: Improved detection of apoptotic cells in archival paraffin sections: Immunohistochemistry using antibodies to cleaved caspase 3. J Histochem Cytochem 50: 449-454, 2002.

 Cleaved PARP
17)
O'Brien MA, Moravec RA, Riss TL: Poly(ADP-ribose) polymerase cleavage monitored in situ in apoptotic cells. Biotechniques 30: 886-891, 2001.

 Cleaved cytokeratin 18
18)
Leers MP, Kolgen W, Bjorklund V, Bergman T, Tribbick G, Persson B, Bjorklund P, Ramaekers FC, Bjorklund B, Nap M, Jornvall H, Schutte B: Immunocytochemical detection and mapping of a cytokeratin 18 neo-epitope expressed during early apoptosis. J Pathol 187: 567-572, 1999.
19)
Barrett KL, Willingham JM, Garvin AJ, Willingham MC: Advances in cytochemical methods for detection of apoptosis. J Histochem Cytochem 49: 821-832, 2001.

 Cleaved actin (fractin)
20)
Yang F, Sun X, Beech W, Teter B, Wu S, Sigel J, Vinters HV, Frautschy SA, Cole GM: Antibody to caspase-cleaved actin detects apoptosis in differentiated neuroblastoma and plaque-associated neurons and microglia in Alzheimer's disease. Am J Pathol 152: 379-389, 1998.



図の説明

図1.
TUNEL法の原理図(TdT: terminal deoxynucleotidyl transferase、DSB:double-stranded break、SSB:single-stranded break)
[小路武彦:DNA鎖切断を指標とした検出法(TUNEL法、ISNT法).臓器別アポトーシス証明法.南江堂,2000, pp. 41-47を改変]

図2.TUNEL法(慢性扁桃炎)、左:プロテイナーゼK処理、右:プロテイナーゼK+DNase処理.胚中心のTUNEL法陽性細胞はアポトーシス小体を貪食するマクロファージである(左)。DNase処理(右)を加えると、すべての細胞核が陽性となる。

図3.ISNT法の原理図(SSB:single-stranded break)
[小路武彦:DNA鎖切断を指標とした検出法(TUNEL法、ISNT法).臓器別アポトーシス証明法.南江堂,2000, pp. 41-47を改変]

図4.ssDNA免疫染色(慢性扁桃炎).左:未処理,右:ficin処理.未処理(左)では弱陽性だが、ficin処理(右)によりssDNA免疫反応性が回復・増強される。

図5.正常小腸絨毛におけるTUNEL法(左)とcleaved caspase 3免疫染色(右).絨毛先端部に少数のアポトーシス細胞が分布している。cleaved caspase 3は細胞質に陽性である。

図6.膵臓の自家融解部におけるssDNA免疫反応性(左:HE染色、右:ssDNA).DNAの切断が生じる壊死や自家融解部において、ssDNA免疫反応性がみいだされる。一般に、ssDNAは固定の影響による偽陽性が生じやすい。

図7.抗癌剤5-FU投与後の大腸腺癌におけるcleaved cytokeratin 18(左)とcleaved actin(右)の比較.EDTA液中での加熱処理後.アポトーシスのめだつ腺癌細胞の細胞質がcleaved CK18強陽性を示すのに対して、cleaved actinは癌腺管内の壊死細胞にのみ陽性所見が観察される。壊死細胞はcleaved CK18弱陽性である。

図8.肺結核の乾酪性肉芽腫におけるcleaved caspase 3(左、加熱処理後)とssDNA(右、DNase処理後).乾酪壊死巣ではcleaved caspase 3陰性、ssDNA陽性を示す。一方、周囲の類上皮肉芽腫ではssDNAに比して、cleaved caspase 3陽性細胞数が多い。

↑back  next↓