back


「形質細胞の不思議」
Plasma Cell
〜君はいったい何者だ〜


藤田保健衛生大学医学部第一病理学  
堤  寛 
(ミクロスコピア 12(3): 170-177, 1995より)


INDEX
 1.形質細胞の不思議
 2.免疫グロブリンIgGは何をしているのか
 3.形質細胞腫はなぜ骨髄にできるのか
 4.形質細胞の分泌のコントロールはどうなっているのか
 5.「粘膜免疫」の担い手
 6.自己免疫と形質細胞
 7.神出鬼没の形質細胞
 8.写真説明

 
形質細胞の不思議

 形質細胞plasma cellは、炎症の局所やリンパ節、扁桃、脾臓といった、いわゆるリンパ組織に分布するお馴染みの単核の細胞であり、顆粒球、リンパ球、マクロファージと並ぶ、炎症細胞の代表選手である。液性免疫の主役である免疫グロブリン産生を担うこの細胞は、光学顕微鏡でみると、とても特徴的な姿をしている(図1,2)。@ 円い核が「車軸状」を示す。ヘテロクロマチンが核のへりに車軸のスポークのように凝集している。A 細胞質は好塩基性。ヘマトキシリン(塩基性色素)に青っぽく染まってみえる。B 核が細胞質の一方に偏り、そのすぐまわりの細胞質だけが中庭のように明るく抜けてみえる。これらの姿形には、当然、それぞれ理由がある。

図1
図2

 @ は、分化を遂げた「専門馬鹿」細胞の特徴といえる。細胞核のデオキシリボ核酸 DNA の中には、すべての遺伝情報が組み込まれているが、多細胞生物においては,一つの細胞ですべての遺伝情報が使用されるわけではない。使われない不活化DNAは、ヘテロクロマチンとして凝集する。免疫グロブリンに専念するこの特別な細胞には、不必要な遺伝情報がとくに多いので、ヘテロクロマチン凝集が強く、特徴的な車軸状核となるのである。A 細胞質の好塩基性は、酸性に荷電している物質、つまり、リボ核酸RNAの豊富さの反映である。電子顕微鏡で観察される粗面小胞体(分泌蛋白の合成の場)に付着する無数のリボゾーム(RNAの塊)が、光学顕微鏡でみえているのである。B 核のわきの明るい中庭はゴルジ装置で占められている。免疫グロブリンを活発に分泌する形質細胞は、ゴルジ装置がとくに大きく発達している(図3、4)
 免疫グロブリン産生系細胞、すなわち、Bリンパ球の最終分化段階と理解されているこの細胞にまつわる不思議を、病理医の目から少しみつめ直してみたい。

図3

図4


免疫グロブリンIgGは何をしているのか

 形質細胞の産生する免疫グロブリンには、IgG,IgA,IgM,IgD,IgEと称される5つのクラスがある。ワクチン接種の後、血中に増加する病原体に対する「特異抗体」の主役は IgGである。一方、小児麻痺の経口ワクチンで誘導される粘膜表面における免疫(粘膜免疫)の原動力はIgA、とくに二量体の分泌型IgAである。IgGは粘膜表面へ分泌されない。IgMは五量体の大分子であり、感染症の病初期にとくに活躍する。IgDは主としてBリンパ球の細胞表面に分布し、血中での意義は少ない(われわれは最近、顔面皮膚の皮脂腺に常在するニキビダニの表面にIgDが付着するのをみいだした)。IgEは、アレルギー反応における悪役として悪名高い。
 ここで、一見非常識ともとれる疑問を一つ。「IgGをはじめとする免疫グロブリンは、本当に、すべからく抗体として機能しているのだろうか?」

 IgGは、確かに、抗体として機能する。しかし、血清中に大量に存在する IgG分子の「すべて」が抗体分子として機能しているとする証拠は、たぶんどこにもない。ウサギに特定の抗原性物質を繰り返し皮下注射して、過剰免疫の状態に置いたとしよう。この場合でさえも、この抗原に対する特異抗体は、とうてい血中IgG(通常、血清100 ml中に1〜1.5 g含まれる)の1%にも満たない。残りの大多数のIgG分子はいったい何をしているのだろうか。

 この点、興味深い研究がある。IgG分子のFc部分が、感染・炎症の病変局所において、血管外に浸出・遊走した好中球から放出される蛋白質分解酵素により限定分解されて、さまざまなの炎症性細胞に対するさまざまな遊走因子が生成されるという。この場合、IgG は抗体分子ではなく(Fab部分の重要性は少なく)、遊走因子の前駆蛋白として機能している。

形質細胞腫はなぜ骨髄にできるのか

 医学生時代からの息の長い疑問がある。多発性骨髄腫と称される形質細胞の腫瘍性増殖は、なぜ骨髄に好んで生じるのだろう。多発性骨髄腫は、老人の全身の骨をボロボロに傷め、しばしば貧血や腎臓障害を併発して、患者を死にいたらしめる形質細胞の悪性腫瘍である。血中の免疫グロブリンの値は異常に増加する。この予後不良の疾患における腫瘍性増殖の場は、どうして正常状態で形質細胞のたくさん分布するリンパ節、扁桃、脾臓や消化管粘膜ではないのか。

 いやいや、正常では、形質細胞はBリンパ球の終末分化状態なのだから、もはや核分裂はしまい。だからこそ、核が車軸状にゴリゴリしてみえるのだ。増殖している細胞の核を特異的に染め出す酵素抗体法を駆使してリンパ節や腸の粘膜を染色しても、増殖する形質細胞にはとんとでくわさない。とすると、骨髄で異常に増殖する形質細胞とはいったい何ぞや。なぜ、こんなことが生じるのだろう。
 広い骨髄腔の大部分が腫瘍性の形質細胞に置き換えられてしまう状況を考えてみよう。正常状態では、成人の骨髄での造血は一部の骨に限られており、大腿骨や上腕骨といった長幹骨の骨髄は大部分が脂肪に置換され、冬眠状態にある。正常で造血の認められる脊椎骨、骨盤骨や胸骨でも、造血性成分は全容積の半分程度に過ぎない。そして、そのうちのせいぜい0.5%程度が形質細胞なのである。

 多発性骨髄腫では、腫瘍性の形質細胞が、正常状態では造血をしていない骨を含めて、骨髄腔全体細胞成分の10%あるいは50%以上も占めるようになる。形質細胞の総数はおそらく、正常の100倍、いや、1000倍以上にも達しよう。そして、腫瘍細胞は一定のまったく同じ性質を有する免疫グロブリン分子、たとえばIgGだけを血中に分泌する。ところが、血中のIgG量は、どんなに多くても10 g/dl程度、つまり、正常の10倍程度にとどまっている。つまり、腫瘍性の形質細胞におけるIgG分泌は著しく抑制されているとみなされる。多発性骨髄腫では、リンパ節や肝臓や脾臓がおかされることがまずないにもかかわらず、正常の免疫グロブリン産生が強く抑制されるのが特徴なのだが、これはおそらく、腫瘍細胞自身が何らかの分泌抑制因子を分泌しているためだろう。


形質細胞の分泌のコントロールはどうなっているのか
 正常状態で、形質細胞による免疫グロブリンの産生・分泌(図5)を制御する機構はあるのだろうか。免疫グロブリンは、粗面小胞体内腔から直接、細胞外へと「垂れ流し」されている。したがって、分泌顆粒をもつが故にその分泌が刺激因子ないし抑制因子によりうまく制御されているペプチドホルモン産生細胞の場合と異なり、その分泌の制御はずっとむずかしそうにみえる。一体、形質細胞の免疫グロブリン分泌を制御する液性因子はあるのだろうか。Tリンパ球やマクロファージの分泌するリンフォカインやモノカインといった情報伝達性の分子が作用しているのだろうか。それとも、何らかの自己制御機構が存在するのだろうか。ディズニーのアニメ「シンデレラ」の英語版で、あの意地悪な母親がしばしば口走る命令形の口調を思い出す。"Self control!"。
図5

 免疫電子顕微鏡法(図6)や電子顕微鏡レベルでの「酵素抗原法」(図7)を駆使すると、形質細胞における免疫グロブリンの細胞内の局在パターンが観察できる。免疫グロブリンは、当然、分泌蛋白産生の場である粗面小胞体の内腔に局在している。正常の形質細胞と多発性骨髄腫の腫瘍細胞を比較すると、興味深い所見に気づく。

図6
図7

  すなわち、正常細胞ではゴルジ装置はまず陰性なのだが、腫瘍細胞では、ゴルジ装置に免疫グロブリンのつよい集積がみられる(図8,9)。私たちは、ゴルジ装置が免疫グロブリン分泌に関する「自己制御塔」として機能しているのではないかと疑っている。つまり、骨髄腫細胞においては、合成された免疫グロブリン蛋白の大部分は分泌されることなく、ゴルジ装置を介して廃棄処分されている―。

図8
図9


「粘膜免疫」の担い手

 免疫学の教科書をみてみよう。Bリンパ球が抗原刺激に反応して形質細胞へと分化する過程として、リンパ節、扁桃、白脾髄といったリンパ系組織における二次リンパ濾胞、とくに、胚中心を経由する図が示されている。この図式は、外来性の抗原物質に対する免疫反応に関する特異抗体の産生経路と考えられる。つまり、これは、もしかしたら、上述した血中免疫グロブリン全体の1%にも満たない成分用の模式図なのではなかろうか。

最近、B細胞分化の新たな経路が提唱されている。リンパ組織の胚中心を経由しないで形質細胞へと直接分化する別の経路が存在し、こちらのBリンパ球系に属する形質細胞の分泌する免疫グロブリンは、しばしば、内在性の抗原、つまり自己抗原に対する反応性を有するという(図10)。多発性骨髄腫で増殖する形質細胞は、どうやらこちらの系統らしい。 

図10

 自己抗体産生との関係で注目されるのは、マウスで最近みつかった B-1細胞とよばれるCD5というT細胞抗原を表出する特別なBリンパ球で、腹腔をおもな住みかとしている。これは、系統発生学的にみて、古い系統のBリンパ球である。B-1細胞は、どうやら、粘膜に広く分布する分泌型IgA産生性形質細胞の母細胞ともなっているらしい。著者は、このB-1細胞は、腹腔内にある大網の乳斑milky spotとよばれる、ちょっとしゃれた名称の、顕微鏡的な大きさのリンパ球の集合地で新生されているのではないかと疑っている。

 「粘膜免疫」を担うリンパ球の腫瘍性の増殖として、最近、消化管、甲状腺、唾液腺や肺などに発生する悪性度の低いB細胞性リンパ腫(MALTリンパ腫)が注目されている。このモルトが効いて「渋い」病変(診断にプロの熟練を要し、かつ、臨床医学的にみておとなしい性格の"がん")では、腫瘍細胞はしばしば形質細胞へと分化する(図8)。臨床症状としては、シェーグレン症候群(乾燥症候群)といった「自己免疫疾患」を随伴しやすい。逆に、MALTリンパ腫は通常、慢性胃炎、慢性甲状腺炎、慢性唾液腺炎といった自己免疫性の臓器病変に続発する。

 「粘膜免疫」は、免疫学の教科書では、従来、どうも日陰もの扱い同様だった。病原体をはじめとする抗原物質が体内に入ることを、粘膜の表面、つまり、外界に接する最前線で果敢にも防いでいる、分泌型IgAを中心とする「粘膜免疫」は、体内に入ってしまった抗原物質に対するIgGによる免疫反応と並ぶ、液性免疫の二本柱である。腸内細菌との共生を必要とする「粘膜免疫」の主役である分泌型IgAには、血中IgG型特異抗体(通常、高い特異性と強い中和力を示す)とはかなり異なった反応パターン(広い特異性や弱い殺菌力)が要求されるのは当然かもしれない。粘膜から感染する疾患、たとえば、インフルエンザ、コレラやエイズに対するワクチンは、ポリオ(小児麻痺)がそうであるように、経口、経鼻、経肛門といった経粘膜投与が有効である可能性が高い。

 従来、すべてのTリンパ球は、胸腺という胸部前方に位置するリンパ系臓器を通り、その過程で自己成分に反応する細胞が選択的に取り除かれて初めて、成熟したTリンパ球へ分化できると考えられていた。しかし、消化管粘膜には、胸腺を通過することなく分化した古い系統のTリンパ球(胸腺外分化T細胞)が多数分布していることが明らかとなってきた。胸腺による選択・除去の過程を経ないため、こちらも、自己反応性の細胞群が多数みられ、むしろ、上皮細胞の分化やアポトーシス(予定された細胞死)に積極的に関与しているらしい(図11)。つまり、粘膜や腹腔を根城とする古い系統のリンパ球たちは、"self control" をもっとも得意とするらしい。


自己免疫と形質細胞

 「免疫」担当細胞の本来の働きは、自己細胞の制御、異常な細胞や死んだ細胞の排除や細胞の新生に対する調節、だったのではないだろうか。外来抗原に対する「免疫」は、系統発生学的にみて、後から進化してきた新参者である。この機構が外来抗原の排除にたまたま好都合だったために、自己を監視する機序にうまく乗っかって、進化したのではないだろうか。「免疫」とは、そもそも、"非自己"の認識ではなく、"自己"の認識が出発点だったのかもしれない。

 正常人の末梢血やリンパ節からとったBリンパ球をEBウイルスを用いてトランスフォームすると、増殖したBリンパ球はさかんに免疫グロブリンを産生するようになる。一個のB細胞由来の細胞群「クローン」を分離すると、いわゆるモノクローナル抗体が作製される。こうしてとれてくるクローンは、しばしば、抗核抗体や抗平滑筋抗体といった自己の組織・細胞成分に対する抗体(自己抗体)を産生する。自己抗体の証明は、自己免疫疾患の診断の決め手となる。しかし、自己抗体の存在そのものは、低抗体価なら、決して異常ではない。そもそも、抗核抗体や抗ミトコンドリア抗体が生きている細胞に直接働くことはありえない。なぜなら、IgGのような高分子量の蛋白質分子は生きた細胞の膜を決して通過できないのだから。これらは、死んだ細胞の核やミトコンドリアをうまく料理するのには適している。抗核抗体は、血清を80倍以上に希釈して、凍結切片(組織を凍らせた後、薄くスライスして、スライドガラスにのせたもの)中の細胞核に蛍光抗体法で反応すれば「陽性」とみなされるのだが、たとえば、20倍希釈で核が美しく緑色に光っても判定は陰性である。実際、試しに、著者自身の血清を使用して、ラットのいろいろな正常臓器の新鮮凍結切片を蛍光染色してみたことがある。生来健康のこの身だが、核や平滑筋はおろか、下垂体、膵ラ氏島や甲状腺といったさまざまな臓器・組織の細胞が、「正常」血清に陽性反応を呈していた。微量の自己反応性の抗体分子は、自己細胞の除去に生理的に活躍しているのではなかろうか。自己免疫疾患とは、自己抗体が量的に異常になる疾患といえるだろうか。正常血清中の「免疫」グロブリンの大部分,とくに、上に述べたFab部分の「不要」なIgGは、もしかしたら、すべて自己反応性のクローン群から産生されている可能性はないだろうか。これらIgGのFab部分は何らかの機構で、正常状態ではほとんどマスクされている―? そして、このマスクの効果が一部失われると、自己免疫疾患を患うことになるのかもしれない。

 自己免疫疾患における自己抗体産生性の形質細胞は、一体、どこにどのように分布しているのだろう。これが意外にわかっていない。臓器特異的な自己免疫疾患の代表である橋本甲状腺炎や自己免疫性胃炎でさえも、自己抗体の産生の場が明らかにされたとは、いまだいいがたい。おそらくは、臓器内部に浸潤する形質細胞なのだろうが―。また、どうして、このような自己免疫性の慢性炎症の場において、胚中心の腫大を伴うリンパ濾胞増生があんなにめだつのだろうか。橋本病の病理形態所見はあまりにも有名すぎて、もはや医師国家試験には出題されないらしい。自己抗体産生系Bリンパ球の増殖・分化にも、胚中心が関与するのだろうか。


神出鬼没の形質細胞

 形質細胞。実に不思議な細胞だ。君は、リンパ濾胞の存在しない部位にも、たんと分布している。鼻粘膜しかり、正常の腸管粘膜しかり。多発性骨髄腫の腫瘍組織内にはリンパ濾胞はまったく存在しない。いったい、君はどこから生まれてきたんだい? 全身のリンパ節が腫大するCD4陽性T細胞性リンパ腫では、病巣内にリンパ濾胞が消失しているのに、たくさんの形質細胞がひしめいている。胸腺が欠如するため、Tリンパ球がないついでに全身の毛もない「ヌードマウス」のリンパ節でも、リンパ濾胞に胚中心がないのに、たくさんの形質細胞が観察される。あまり知られてはいないが、放射線照射されたあとの食道や子宮の組織の中で、君はがんばって居残っているよね。リンパ球は死に絶え、癌細胞さえも瀕死の重症なのに! 正常副腎の皮質・髄質境界部から髄質にかけて、たくさんの単核細胞が浸潤しているのが、教科書にあまり書かれていない、知る人ぞ知る、隠された顕微鏡的な特徴なのだけれど、副腎皮質由来の糖質コルチコイド濃度が非常に高い、リンパ系細胞の生存にとってたいへん不利なこうした環境下でも生き生きとしているのは、君のしたたかさをよく表わしている。

 そういえば、君の動きはたいへん緩慢だよね。遊走する能力はほとんどないとされている。おかげで、末梢血液はもとより、胸水や腹水の中にさえ顔を見せることが少ない。胸膜炎や腹膜炎の局所の組織中では、君の仲間はいっぱい増えているのにね。骨髄をうめつくすように増殖する多発性骨髄腫でも、白血病の場合と違って、腫瘍性の形質細胞が末梢血液にお出ましになることはまずない。それなのに、君の仲間は消化管粘膜や鼻粘膜の中で、広い範囲にわたってほぼ均一に分布してるよね。いったい、どうやってそこまで行き着いたんだい?

 梅毒病変では君の仲間がたくさん登場するね。この所見が、梅毒の病理診断に大きく寄与してくれるのは、その筋ではとみに有名なのだけれど−−−。君は所属リンパ節ではなく、感染局所で梅毒の病原体、コロンブス一行が新大陸から持ち帰ってから、瞬く間に世界を席巻したという、憎きトレポネーマに対する特異抗体をつくろうとしているのかい? 感染部位にリンパ濾胞はまずみられないけれど、君は、そこでもリンパ濾胞の助けを借りずに生まれてきたのかい? もしかしたら君は、トレポネーマに特異的な抗体ではなく、炎症の仲介役(遊走因子の前駆物質)としてのIgGを産生しようとしているのかい?

 肝硬変という肝臓の機能が悪くなる慢性の病気のとき、血中の免疫グロブリンの量がずいぶんと増加するのは、肝臓で分解され損なった細菌などの腸管内抗原に対する抗体を君ががんばってつくっているからだ、とする説があるそうだけど、それは本当かい? 肝硬変の患者さんの脾臓や腹腔内リンパ節で君たちが数を増やしている所見はあまり目立たないよね。君は寝ているだけで、単に、疲れた肝細胞の免疫グロブリンに対する分解処理能力が落ちただけなんじゃないの? 一体、君はだれにいつ免疫グロブリンの分泌をやめるようにいわれるんだい?

 君はいつまで生きていられるのだい? 長生きなのかい? 君は不妊症ではなかったのかい? 本当は自分の子孫を自分の力で残すことができるのかい? 粘膜に住む君が、有糸分裂している姿を電子顕微鏡でみつけたという研究者仲間が近くにいるけれど、それは本当に君だったのかい?

 いやあ、君については、本当にわからないことだらけだ。ねえねえ、教えておくれよ。謎の細胞君。君はいったい何者なんだい?



写真説明

図1: 形質細胞の顔つきT(ヘマトキシリン・エオジン染色)
 
「車軸状」を呈する円形の核が、好塩基性の細胞質のいっぽうに偏って分布している。核のそばで明るく抜けたようにみえる部分は、「核周明庭」と呼ばれるゴルジ装置の存在する領域である。

図2: 形質細胞の顔つきU(メイ・ギムザ染色)
 
偏在する車軸状核、楕円形の好塩基性細胞質、核周明庭が明らかである。

図3: 形質細胞の電子顕微鏡所見
 
核(N)には、黒くみえるヘテロクロマチンが豊富である。細胞質には、層状に並ぶヒモ状で、表面に無数のリボゾームが付着する粗面小胞体と、Gで示されるゴルジ装置がたいへんよく発達している。形質細胞は、まさに、免疫グロブリンの産生工場そのものといえる。

図4: 形質細胞の電子顕微鏡所見(シェーマ)
 車軸状で偏在する円形核、よく発達した粗面小胞体(緑色)、および核の一側にみられるゴルジ装置が特徴的である。

図5 形質細胞によるIgG産生所見
 
ヒトIgGに対する特異抗体を用いた酵素抗体法という方法でヒトのリンパ節を染色すると、IgGを産生・分泌する形質細胞の細胞質がみごと褐色に染め出される。核は、ここでは、緑色に染め分けてある。

図6形質細胞によるIgM産生を示す電子顕微鏡所見
 
免疫電子顕微鏡という電子顕微鏡レベルでの酵素抗体法を利用して観察すると、形質細胞における免疫グロブリンの細胞内局在が黒く鮮やかに証明される。粗面小胞体の内腔がそろって陽性を呈するいっぽうで、ゴルジ装置(G)は陰性である。N=核

図7形質細胞による西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に対する特異抗体の産生を証明する電子顕微鏡所見(「酵素抗原法」)
  マウスの皮下に繰り返しHRPを抗原として注射すると、所属リンパ節にはHRPに対して特異的な抗体を産生する形質細胞が出現する。リンパ節を薄く切った「切片」にHRPを反応させると、抗HRP抗体を産生する細胞にのみ HRPが特異的に結合する。この電子顕微鏡写真では、HRPの結合部位がHRP酵素活性(HRPは、過酸化水素を分解する酵素である)の局在として黒く観察される。図6の場合と同様に、抗HRP抗体は、おもに粗面小胞体の内腔に広く分布していることがわかる。ここでも、ゴルジ装置(G)は陰性である。N=核

図8胃粘膜に生じた低悪性度B細胞性リンパ腫(MALTリンパ腫)で観察されるモノクローナリティーを示す形質細胞(酵素抗体法染色)
 この腫瘍では、胃粘膜内でしばしば形質細胞への分化を伴う。圧倒的に多いカッパ鎖(K)陽性の腫瘍細胞由来の形質細胞が「核周明庭」=ゴルジ装置に一致した陽性像を示すのに対して、少数散在する非腫瘍性ラムダ鎖(L)陽性の形質細胞では、細胞質全体が褐色に染色されている。核は緑色を呈す。注:形質細胞が腫瘍性に増殖する場合は、カッパ鎖あるいはラムダ鎖と称される免疫グロブリンの軽鎖2種のうち、いずれか一つだけを産生するのである。この現象は、「モノクローナリティー」とよばれる。

図9 腫瘍性形質細胞における免疫グロブリン軽鎖、カッパ鎖、産生を示す免疫電子顕微鏡所見
 多発性骨髄腫の腫瘍細胞では、粗面小胞体の内腔における免疫グロブリン産生像に加えて、ゴルジ装置(G)にも陽性所見が観察される。N=核

図10Bリンパ球の形質細胞への終末分化を示す2つの経路
 免疫学の教科書に詳しく書かれているリンパ濾胞の胚中心を通るオーソドックスな経路(外来性抗原に対する反応様式→上)に加えて、リンパ濾胞を必要としない経路(内因性、すなわち、自己の抗原に対する反応様式→下)の存在が想定される。

図11 粘膜における「免疫」反応を示すシェーマ
 上皮の下に分布する形質細胞で作られたIgAは、SC (secretory component)という分泌補助蛋白を産生する上皮細胞の協力のもと、粘膜表面へと分泌型 IgA として、エネルギーを使って分泌される。分泌型IgAは、細菌との共生に重要な役割を演じている。一般に、その殺菌力は弱い。上皮細胞の間には、胸腺に依存しないTリンパ球 (IEL, LGL)が多数分布し、上皮細胞の増殖・分化・細胞死(アポトーシス)を制御している。上皮細胞の下には、形質細胞による二量体IgAの産生を助けるべく、ヘルパーT細胞が共存している。 IEL = intraepithelial lymphocytes(上皮細胞間リンパ球), LGL = large granular lymphocytes(大型顆粒状リンパ球), gd = gd T-cell receptor(γδ型T細胞受容体), sIgA = secretory IgA(分泌型IgA)  


 
page up↑