病気にならない生活の知恵

 〜腕時計をした医者には近づくな!〜


藤田保健衛生大学医学部第一病理学、教授 
堤 寛(つつみゆたか) 


 日常何気なく行っている行為が、本当に筋が通っているのか。世界水準でものを考えたとき常識的といえるのか。病院で行われている因習にも同じことがいえる場合があります。
 今回は、そうした点に着目して、かつなるべく身近な話題にしぼって、医療にまつわるお話をしてみたいと思います。
 より詳しくは、拙著(文末に紹介)をお読みいただければ幸いです。

1. 「熱のあるときや注射のあとにお風呂に入らない」のは世界の非常識
 発熱時には汗をかきます。汗まみれの皮膚では細菌がどんどん増殖します。こういうときこそお風呂に入って体を清潔にして、暖かいうちに布団に入ってぐっすりと眠りましょう!かぜにはこれが一番です。また、注射針のあけた穴がいつまでもあいたままなんてことはあり得ません!

 他の国の人たちは、熱のあるときほど湯船に浸かります。あのお風呂きらいの西欧人たちがそうするのです。
 貝原益軒著の「養生訓」(江戸時代の健康指南書)に、はしかのあと風呂に入るなとある影響なのでしょうか?はたまた、内風呂も空調設備もない"おばあさん"の時代、銭湯から帰る間に体が冷えてしまうことを諭したゆえんでしょうか。

2. かぜひきの予防にはうがいとともに「手洗い」が重要

  かぜの原因はかぜウイルス。ウイルスは咳やくしゃみで飛び散ったしぶき(飛沫)の中にいます。飛沫を吸い込むと感染しますが、机やテーブルにおちた飛沫を手で触って、その手で鼻を触る経路でも感染が成立します。だから、かぜをひかないために、石けんでしっかり手を洗いましょう。

  うがいは、いやな口臭の原因となる口の中の細菌数を減らします(とくに、うがい薬を使った場合)。のどからウイルスを洗い流す効果もあります。

  かぜをひいたときにマスクをつけて外出するのは日本人の誇るべき習慣です。飛沫をマスクに捉えることで、ウイルスをまき散らすことが防がれます。でも、たとえばデンマークでは、日本で当たり前の総合感冒薬が売られていません。マスクをする習慣もありません。かぜをひいたら家で寝ているので、外出する人はいないのだそうです。

3. かぜには抗生物質は効かない!
 かぜをひいたときに、念のために抗生物質をもらうことがありますが、これは通常不必要です。抗生物質はかぜウイルスには効きません。細菌が二次感染するときにはじめて抗生物質が有効になるのですが、そんなことはめったにありません。抗生物質の使いすぎは抗生物質の効かない細菌(耐性菌)を増やすだけです。かぜウイルスに効く薬はありません。よく暖まって十分に睡眠をとりましょう。そして、抗生物質を処方してくださいと、医者に要求するのはやめにしましょう。

 ただし、インフルエンザウイルスには効く薬があります(抗生物質ではありません)。症状が互いによく似ているインフルエンザとかぜは簡単な検査で迅速に区別できるようになりました。

4. 院内感染を防ぐ切り札は、手洗いと手の消毒。腕時計をしている医療者はきちんとした手洗いをしていない証拠。だから、「腕時計をした医者には近づかない方がいい」
 院内感染とは、病院に入院したためにもらう感染症のことです。病院は病気を治す場所なのに、院内感染はあとを絶ちません。病原菌をもっている患者さんを触った手をよく洗わずにあなたに触るので、もらいたくない病原菌をもらうのです。院内感染の病原菌は医者や看護婦の鼻に住みつきやすいのです。彼らは健康なので無症状です(つまり、健康保菌者なのです)。弱った患者さんは、こうした菌にも弱いのです。

 手洗いの基本は手首まで洗うこと。腕時計をしていたら正しい手洗いはできません。だから、腕時計をした医者には近づかない方が無難なのです。また、せっかく手洗いしても、そのあとで自分の顔を触った手で診察されたのでは元も子もありません。おわかりでしょうか?医療者をよく監視してくださいね。

 マクドナルドの標語。「正しい手洗いを教えてくれるのは、お母さんと小学校とマクドナルド」。残念ながら、病院は入っていません。マックでは、O-157という食中毒菌(病原性大腸菌)の対策上、手洗い戦略が企業の重要な生命線となっています。

5. スリッパと生卵の話
 スリッパは日本の特産品です(明治初期に横浜で発明されました)。スリッパに履き替える大病院はさすがに少なくなりましたが、開業医はまだスリッパ全盛でしょう。どうして、スリッパを履くと安全なのでしょう。スリッパを履けば床がきれいに保たれるのでしょうか。答えはNoです。病院の床を触る人はほとんどいません。床に菌がいても何の害もないのです。逆に、誰が履いたかわからないスリッパを履いて、水虫をうつされる可能性は決して少なくありません。欧米では、無菌室でも、集中治療室でも、手術室でも土足で出入りします。スリッパに履き替えて水虫の院内感染をおこしているのは日本の病院の大きな特徴なのです。

 旅館の朝食の定番は、ご飯に納豆に生卵。この生卵がどうやってお膳にのっているかが大事です。不安定な生卵がお椀に入れられてくることが多いですよね。これはたいへん危険です。生卵の殻にはサルモネラという食中毒菌がしばしば付着しているからです。生卵を入れた容器に卵を割り入れて食べるなんて!旅館のスリッパがしばしば一組ずつ重ねられているのと同じくらい不衛生なのですぞ。床の汚れを素足や靴下になすりつけて、皆さん平気ですか?

6. 女性陣へのメッセージ。トイレで「大」をすませたあと、トイレットペーパーを三角に折るのは絶対にやめましょう!

 ホテルのトイレットペーパーはしばしば三角に折られています。それをまねして、用を足したあと、(当然、手を洗わずに)トイレットペーパーを三角に折る。これは重大なエチケット違反です。お尻を拭いた手に便の細菌がつかないようにするためには、トイレットペーパーを10枚重ねる必要があります(とくに下痢便の場合)。つまり、ふつうにお尻を拭いたあとは、無数の細菌が指についている(可能性が大きい)のです。そんな指で、折り紙された紙であなた自身のお尻をふいても平気ですか?「小」のあとだから大丈夫というのも筋が通りません。なせなら、つぎにそのトイレを使う人にとって、前の人が「大」をしたのか、「小」だったのかはわからないからです。

 ちなみに、「大」のあとで紙を使ってお尻を拭いているのは、世界の3人に一人だけだそうです。トイレットペーパーは世界的には貴重品なのです。江戸期の日本の庶民もお尻を拭いていたのは、たとえば「フキ」の葉っぱだったようです。

7. 正しい温泉の入り方
 温泉や24時間風呂のお湯にはレジオネラをいう細菌が巣くっている可能性があります。42℃が大好きな菌なのです。レジオネラ肺炎は老人に恐ろしい肺炎をおこします。実際、重症のレジオネラ肺炎をおこした老人の大部分は1週間ほど前に温泉旅行に行っています。では、どんな温泉が怖いのでしょうか?

 菌の検査をすれば、レジオネラが証明されるのはごく普通です。でも、菌がいるだけでは感染は生じません。「感染経路」が成り立たないからです。レジオネラは皮膚からは決して感染しません。湯気を吸い込んでも感染しません。菌を含む水滴を吸い込むことではじめて感染するのです。調べれば、24時間風呂にはほとんど必ずレジオネラが証明されます。でも、いてもかまいません。それを吸い込まなければいい。

 危険な温泉の入り方をお教えしましょう。菌が一番増えた状態にある、浴槽の掃除直前の午前中の浴槽に入り、肩に湯が落ちる「落ち湯」に打たれたり、泡の出の激しいジャグジーに長時間つかることです。水滴を吸い込むような行為が危険なのです。湯気は水蒸気だけですので、温泉の湯にゆっくり浸かるのはまったく安全なのですぞ。

 ゆめゆめ、24時間風呂のお湯をつかったシャワーなど浴びませぬように!

 はてさて、皆さん、お役に立ったでしょうか?それとも、薬が効きすぎたでしょうか?


参考:病院でもらう病気で死ぬな.現役医師が問う、日本の病院の非常識度」(堤寛著、角川新書、角川oneテーマ21、A-11、2001.8、税込み\600)

 
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