完全病理学:「刊行によせて」より

 このおこがましい名称のアトラス風教科書では、代表的病理画像を中心とした症例提示を通じて疾患・病態が解説されている。初版「ゼッタイわかる病理写真の読み方」(1999年10月刊)は、医師国家試験を受験する医学部6年生を念頭において執筆された。しかし、実際には低学年の病理学実習に使われたり、研修医が便利に使っていただけたり、当初考えなかったニーズがあることが実感された。低学年の学生からは、どうして心筋梗塞や脳出血がないのですか、といった質問が届いた。そこで、編集部のつよい意向と後押しがあり、今回の全面改訂にあたっては、対象を低学年の医学生から研修医、さらにはトレーニング中の病理医にわたって幅広く設定した。「各論」の幅を全領域に広げると同時に、「総論」部分を新たに書き加えた。

 「病理画像」としては、従来通り、血液、尿沈渣、病原体のGram染色や患者さんの肉眼所見などを含む幅広い形態画像を設定した。疾患・病態としては、内因性疾患に限定せず、通常の病理学の教科書に記述の乏しい外傷、中毒、薬剤の副作用を含む外因性疾患も重視してとりあげた。学生・研修医諸氏にぜひ知っておいていただきたい病理の技術論も重要なポイントの一つとして紹介した。頻度の高いcommon diseaseとまれな疾患・病態を同等の重みづけでとり扱った点、他の病理学テキストでほとんどとり扱われていない疾患・病態にも注目した点、あちらこちらにエッセイ風のColumn、PrincipalやStep Upを挿入し、モチベーション効用をねらった点、一人の著者によって書かれているため全体の統一性が高い点を含めて、従来の病理学の教科書にないユニークな内容になっている、と著者は勝手に信じて疑わない。総論と各論の重複を必要最小限としたため、総論の記述が不十分に感じる向きがあるやもしれぬが、各論の記述の中で補われているはずである。

 この本に提示した症例群には、著者の28年にわたる病理医としての経験のすべてが集約されている、といっても過言ではない。まれながら、いやそれゆえに思い入れのつよい症例もある。あまりにも日常的な疾患・病態ゆえに画像の選択がむずかしかった場合も少なくない。個別の症例提示ゆえに、個人を特定しにくいよう、できるだけの配慮をした。

 予定外にボリュームが大きくなりすぎたことから、本書はやむなく総論1,各論2の3分冊となった。この点、ユーザーである学生・研修医・若手病理医の諸氏が使いやすいと感じてくれることを祈る気持ちでいっぱいである。

 記述内容の「堤節」が気になる人がいれば、気楽に(笑って)読み飛ばしてほしい。いや、むしろ率直なご批判をいただければ幸いである。疾患解説はなるべくup-to-dateな内容にしたつもりだが、不適切な記述や思い入れがあるやもしれない。文字数の関係で書き足らない場合もあったし、逆に要求される文字数が多すぎるため、余分なことを書きすぎた(書かざるを得なかった)場合も少なからずあった。肝心な写真はなるべくわかりやすく美しい、アーティスティックなものを選んだつもりだが、中には質的にあるいは部位的に不満足ながら提示した症例もあった。マクロとミクロの選択に迷った場合は、なるべくマクロ写真を優先した。

 なるべく自力で集めた症例(著者は自慢の標本コレクターのひとりである)を用いたが、一部は他施設から借用させていただいた。症例の特定を避ける意味と兼ねて、一つひとつに謝辞を書くことはあえて避けさせていただいた。画像提供者・協力施設は別途、一覧させていただくことで謝辞に代えさせていただきたい。現在の藤田保健衛生大学への赴任以前に21年間在籍した東海大学医学部付属病院と学生時代から現在まで29年間にわたって世話になりつづけている横浜市みなとみらいのけいゆう病院の症例がことに多いことだけは記述しておきたい。また、当初の予定より大幅に長くなってしまったこの本をこうして何とか書きあげるにあたっては、医学教育出版社の深尾栄一氏、天野準氏の励ましと後押しが必要だった。がまんづよく応援してくれた両氏に改めて深謝したい。

総論は2005年5月第1第1刷刊! 各論2冊は2005年秋に刊行予定

(著者:堤 ェ、全164ページ、¥4,725(税込)、医学教育出版社

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