病院でもらう病気で死ぬな
著者:堤 ェ、全 214 ページ、¥571、税別、角川書店(角川oneテーマ21、A-21)
東京、2001年8月第1版
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解説
筆者は日々病理診断を行う病理医であると同時に、私立大学医学部の教員でもある。筆者の問題意識の原点は、第3章「病院で一生懸命働くと病気になる?」で紹介した結核症の業務感染だった。いっしょに病理解剖している臨床検査技師や医師の仲間がつぎつぎに結核にかかっていくのを目のあたりにしたのだ。十数年前のはなしだ。なにか変だと感じて、地元の保健所、県庁経由で厚生省の感染症対策室を訊ねた。逆に業務感染に関する実態調査をたのまれたことが"社会派病理医"としての出発点となった。
筆者はこれまで、メチシリン耐性黄色(おうしょく)ブドウ球菌(MRSA)の院内感染による肺炎や敗血症で亡くなった患者さんの病理解剖に多数接してきた。悪名高いこの菌は抗生物質が効かない。そして、この院内感染は、上に述べたような手洗いの不徹底から生じることがよく知られている。ところが、そうした痛い経験を臨床現場に返し、なぜ院内感染が発生したのか、どうしたら再発を防ぐことができるかといったことを解剖症例から学び、前向きに検討する院内システムが乏しい。こんなことがありましたと、個別の報告を個別の医師にするにとどまらざるをえない。病理医のほうも、院内感染防止に病理解剖の結果を役だてようとする意気込み盛んとはいいがたい。自然、解剖結果の最終報告までに時間がかかりすぎる―。
プロの病理医として日々しごとをするなかで、矛盾だらけのわが国の医療システムに対する疑問や筋の通らないいい伝え・因習にたくさん気づいた。だれでも一度や二度は病院のお世話になるだろう。その病院がこのままでいいのか。国際標準をみすえた改革の必要性が必要なのに、日本という国は、医療の社会においてもやはり、ずいぶんとドメスティックなのではないか。
本書では、これまでに書きためたり思いためたりしてきた問題意識を、思いきりだしきってみた。こんな一介の"病理医"が、田舎の町で必死にもがいている姿を少しでも知っていただきたければ幸いである。願わくは、ここに提示した問題が一部でも改善され、世界に通用する医療が実践できるようになればいいのだが―。